☆矢小説
□STRANGER IN THIS TOWN(氷河×カミュ)
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空港に降り立つと、ものすごい歓声とあまりの人の多さに男は目を疑った。
何だ、一体…?
尋常じゃない人の群れに、ただただ驚くしかなかった。
普段からクールを心がけている男は、パッと見、表情は変わっていなかった。
感情は内で押さえ込み、男は黙って涙する。
これが、彼の座右の銘でもある。
それにしても、見事に女ばっかりだな。しかも、年上ばかり…。
母親と同じくらいの年代の女性達が、何やら文字の書かれたうちわや垂れ幕を持って黄色い歓声を上げている。
男はかけていたサングラスをそっとずらした。
中から覗くのは、ルビーのような深紅の瞳。染めているわけでもない髪の色も瞳と同じで、大変目立っていた。
さらに、長身の上、筋肉質な身体付きなのにジャガーのようなしなやかな身のこなし。
顔立ちも文句なしに整っていて、言う事なしの美男子だ。
さて。男は大きな目的をもってここにやって来ていた。そのためには、ロビーを通って空港から出なければならない。
仕方ないっ。
グッと拳を握り、男はロビーに足を踏み入れた。
キャー!!!!!! ○ン様〜!!!!
一斉に起こる、黄色い叫び。
しかし、それは男がロビーに足を踏み入れる一歩手前で起こった。
男は女性達の謎の言葉に、またしてもクールに首を傾げた。
4サマ…?
愛します〜!!!
サランヘヨ〜!!!!
女性達は恐ろしい呪文のように同じ言葉を繰り返し、その周りを何十人もの報道陣が、カメラをかまえていた。
テレビカメラも何台も来ていて、アナウンサーらしき人間がマイク片手に熱く語っている。
一体、何なんだ??
人の波にもまれながら、男はしばらくその光景を観察していたが、どうやら女性陣が熱狂的な声を上げているのは、自分のすぐ前を歩く人間に対してだという事に気付いた。
「芸能人か?」
ロビー内でたかれるあまりの量のフラッシュに負け、男は顔を背けた。
すぐ側で、マイクを持った若い女性アナウンサーが何か言っているのが聞こえて来る……。
『成田空港の様子ですが、3千人のファンがロビー内で一斉に○ン様コールを行っています。圧巻です!!』
「わあ〜。すごいファンの数だね。見てよ、氷河!」
「瞬! 沙織さんが呼んでいるぞ。早く行かなければ!」
「うん。そうだけど、すごいんだよ」
リビングのテレビ画面に釘付けになっている瞬に、氷河はしょうがないなとクールに息を吐いた。
そして、ちらりと画面に目をやり、
「!!!!!!」
持っていた鉄アレイを床に落としてしまった。
「わっ! 危ないじゃないか!」
「瞬。俺、ちょっと出かけてくる!」
「えっ? ちょっ、ちょっと !!」
そう言って、まさしくマッハを超えて部屋から飛び出していった氷河。
「何なの???」
確か、氷河は一瞬だけテレビの画面に目をやって、酷く驚いていたよな。
そう思い、テレビに目を向けた瞬だったが。
「えっ? カミュ???」
そこには、日本の主婦の心の恋人・○ン様が映っているのだが、その後ろ。
他の乗客に紛れて見えるのは長身の深紅の男。
ハリウッドスター顔負けの美男子なので、○ン様目的で来ている女性陣も視線は釘付けだ。
「日本に来るだなんて、沙織さんは言ってなかったけど…」
でも。きっと弟子煩悩な彼の事だ。こっそり氷河に会いに日本にやって来たに違いない。
「誰よりもクールな聖闘士だとは思えないな……ええっ!!!」
そして。
再び瞬は目を見張る。
「氷河…」
先程、部屋を飛び出したばかりの男がテレビ画面の中にいた。なんと、深紅の男と、熱い抱擁を交わしている。
しかも、どういうわけか師と弟子との熱いハグに、カメラはアップで迫っていた。
「○ン様映ってないし…」
続く…。