蜃気楼小説

□ある雪の日に
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窓の外の明るさにふと気が付き、顔を上げると、真っ白いものが空から舞い降りていた。
男は、パソコンのキーボードを叩いていた手を止めて、その儚い空からの贈り物にしばし現実を忘れた。


白い雪は、彼に似ていた。


何ものにも決して染まる事のない、孤高の存在。
どんな高嶺の花よりも美しく、男を惹き付けて離さないその凶暴なまでの真っ直ぐな眼差し。
いつか、その眼差しを自分だけのものにする事を誓い、長い年月を生きて来た。



しかし。



「……ーい」


彼を知れば知る程、その魂自体の美しさに心奪われ、今では彼なしでは息さえできない弱い存在になってしまった。
しかし、それは決して不幸な事ではなく。


「それと言うのも、あなたが美し過ぎるのがいけないんですよ」


「…おい」


「万人を狂わせるタイガース・アイ。俺をどこまで墜とせば気が済むの?」


「おい。駄犬!」




スパンッ!




「……痛いじゃないですか、高耶さん」


「お前が違う世界に行っちまったから、こうして元に戻してやったんだよ。何、気持ち悪い事言ってんだ」


ド○フのコントのようにスパーンと容赦なく頭をスリッパで叩かれた男は、その端正な顔を僅かに歪ませ、いつの間にかすぐ側まで来ていた高耶に恨みがましい眼差しを向けた。


「それにしても、もうちょっと別のやり方があってもいいんじゃないですか?」


「別のやり方って何だよ?」


「……そう。例えば」


「!な、何しやがるっ」


男はその長い腕で高耶の細い腰を掴むと、ぐいっと力強く自分の胸元に抱き込み、そのすべらかな首筋に唇を落とした。


「こんな風にとか…」


「…っ! ……」


「こんな風に…」


「なおっ、ん!」


男は目の前にある魅力的な唇を奪い、荒々しく侵入した舌で口腔内を犯した。
呼吸を奪い、逃げようとする高耶の腰をさらに自分の腰に引き寄せ、熱くなっている部分を身体で伝える。


「…んっ…んぅっ!」


押し付けられた男の下半身の漲りに、高耶の身体がビクリッと反応を見せる。
それでも、男は逃げる事を許さず、深く深く舌を絡ませ合う。


「…あっ……はあっ…」


そしてようやく唇が離された頃には、高耶は情欲に濡れた目で男の腕の中にいた。
ぐったりと身体の力を抜き、イスに座った男の膝の上で、その広い肩に息も絶え絶えにもたれかかる。


「俺だったら、こうやってあなたを自分の世界に引き戻す」


「! ……っ」


耳元でワザと落とされる掠れた囁きに、とうとう高耶の怒りが頂点に達した。
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