蜃気楼小説

□IN MY ROOM
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「お兄ちゃん? やだ、帰ってるの?」


高耶が家に帰って来て制服を脱いでいると、妹の美弥の声が玄関から聞こえてきた。
高耶は脱ぎかけていた学ランを半分、身体にまとわりつかせたまま玄関に向かった。


「美弥か? 今日はバイト休みになったんだ…」


「何でこんなに早い時間に帰って来てるの? …やだもう、予定が狂っちゃったじゃない」


「えっ、何て?」


最後の美弥の言葉に引っ掛かりを覚え、高耶が玄関へ顔を覗かせると。




「こんにちは」




「!! えっ、な、な、なおえぇ〜☆%※?!」


まさかこんな所にいるはずのない人物の登場に、高耶は素っ頓狂な声を上げる。


「な、何でお前がこんな所に…? っつうか、何で美弥と一緒??」


全く意味が分からない。
こんな狭い玄関には不釣り合いな背の高い男は、特に気にする事もなくニッコリといつもの笑顔で答えた。


「ご夕飯に招待されましたので」


「はあ?」


「ご馳走してくれるんでしょう?」


そんな約束したっけ? と頭を捻っても、思い当たるフシは何もない。
しかし、男は当然のようにそこにいる。


「やだ、お兄ちゃん。いつまで直江さんを立たせておくつもり? すいません、お兄ちゃんが気が付かなくて。さっ、どうぞ」


マッハで着替えてきたらしい美弥が、高耶を押し退けて直江を家の中に招き入れる。


「狭くて汚い家ですけど、どうぞ」


「お邪魔しますね」


礼儀正しくお辞儀をし、直江は靴を脱いですっと姿勢正しく家の中に入っていく。


「ちょ、ちょっと待てよ」


慌てて男の腕を掴もうとした高耶の耳元に、囁きが落とされる。


「そんな姿、見せるのは俺の前だけにしてくださいね」


「えっ?」


ハッと気が付けば、学ランは腕の途中まで脱げかけ、その上、ネクタイも外れ、シャツはズボンから出かかっている。


「かなりそそられますねぇ」


「お前っ!」


「お兄ちゃん! 早く着替えてきて」


美弥の一喝に、高耶はハイ…と慌てて自分の部屋に引っ込んで行く。
後ろで、クスリと笑う男の声を聞きながら。


何で、どうして直江の奴!


ぶちぶちとぶーたれながら、そう言えば……と、昨晩の電話でのやり取りを思い出してみる。







『お兄ちゃ〜ん、直江さんから電話』


『えっ、直江?』


風呂上がりにアイスを頬張っていた高耶は、怪訝そうに美弥から受話器を受け取る。


『……よう』


『こんばんは、高耶さん』


『何か用事か?』


『用事がなければ電話をかけてはいけませんか?』


『そういうわけじゃないけどさ…』


『あなたの声が聞きたくて、我慢できずに電話してしまいました』


『お前な〜。そういう事は女に言えよな』


『そういう事を言いたい相手は、1人だけですよ』


『お、お前なあ〜』



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