☆矢小説
□BAD ANIMALS(氷河×カミュ)
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「ふう。さっぱりした」
宿泊予定のホテルにチェックインしてすぐ、カミュはシャワーを浴びて身体を清めた。
普段生活しているギリシアという国は、暑いとはいえほとんど湿度のない国だ。
逆に温暖湿潤気候のここ日本は、同じ気温でも湿度が高い分、すぐに汗をかいてしまう。
カミュは、バスローブ姿で浴室から出てきて一息ついた。
城戸邸に泊まるよう、しつこいくらいに氷河に勧められたカミュだったが、夜も遅くなったしそこまで世話になる訳にはいかないと、やんわりと断った。
別れ際、なぜか疲れたようにがっくりと肩を落とす弟子の姿が脳裏に焼き付いている。
久しぶりに会った愛弟子の変わりようは、クールなはずのカミュを動揺させるに充分なものだった。
力強い腕、厚みを帯びた胸板。野性味溢れる、熱い眼差し…。
「それにしても…、氷河は何を言おうとしていたのだ?」
偶然出会った、カノンやシャカに阻まれながらも、何かを伝えようと必死になっていた氷河。
「!」
不意に。物思いに耽っていたカミュの耳に、携帯の着信音が届いた。
「……もしもし」
今まさに、相手の事を考えていたところだったので、あまりのタイミングの良さにカミュは苦笑した。
『…カミュ?』
「ああ。どうした?」
恐る恐る、と言った感じで自分の名前を口にする氷河。
カミュは、濡れた頭をバスタオルで拭きながらベッドに腰かけた。
『………』
「どうした? ん?」
それ以上、何も言おうとしない氷河に、カミュは優しく先を促す。
そして思い出す。
昔。いたずらをして怒られた夜は、必ず自分の部屋を訪れた氷河。
必死になって、自分の思いを拙い言葉で伝えようとするのだった。
そんなつもりでやったんじゃないんです、カミュ。カミュが喜ぶと思って…。
あの頃と、何も変わっちゃいない。
『……いたい』
「ん? 今、何と言った?」
『あなたに会いたい、カミュ』
「心配せずとも、明日はちゃんと城戸邸の方へ行かせてもらうぞ? 星矢や瞬達にも会いたいしな」
『会いたいんです。今』
「氷河…」
氷河がこんなワガママを口にするのは初めてだった。
カミュは思わず答えに詰まり、しばらくの沈黙が2人を包む。
しかし。先にその沈黙を破ったのは氷河だった。
『すいません、ワガママ言って。俺、やっぱまだ子どもだ。忘れて下さい、カミュ。今日はもう疲れたでしょ? もう寝て』
「バカ。ちょっと待て。最後まで人の話を聞かんか。…5分程で行くから」
『カミュ?』
ここら辺が、弟子に甘いとミロに言われる所以なんだろうなと、カミュは認めざるを得なかった。
「城戸邸にいるのだろ? 今、着替えるから…」
ピンポーン
その時。入口のチャイムが鳴った。
「…? ちょっと待っていろ。すぐに行くから」
そう言って、無防備にも相手を確かめずにドアを開けたカミュは。
「5分も待てません。今すぐあなたに会いたかった」
電話で話していたはずの、城戸邸にいたはずの愛弟子が目の前に立っている。
カミュは呆然と、その顔を見上げた。
「1分、1秒だって我慢できない。だってあなたの事が好きだから」
「!!!!!!」
そして。伸びてきた腕に、きつくきつく抱き込まれてしまったカミュだった。
終わり…?