☆矢小説
□PARADISE CITY(氷河×カミュ+シャカ)
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渋谷に銀座。秋葉原では見た事もないような光景に出くわし、2人は最後、東京タワーに来ていた。
「もうすっかり陽が沈んでしまったな」
「疲れたでしょう、カミュ」
「なんの。これしきの事で疲れるはずがないだろう」
そう言うカミュではあったが、氷河が言いたかったのは精神的にという意味だった。
光速を超える程の力を持つ黄金聖闘士に身体の疲れを聞くなど、愚問だ。
「けど。やはりあなたはどこにいても周囲の目を惹いてしまいますね」
今も、周りにいる人間達がちらちらと自分達を見ている事を揶揄し、氷河は隣りで東京の夜景に見とれているカミュに目をやった。
美しい…。世界のどんな美男美女よりもはるかに美しく気高い存在。聖闘士が敬わなければならないアテナより、氷河にとっては師の方が高貴な存在だった。
師の前では口が裂けても言えない本心だったが。
「何を言う。皆、お前のその雄々しい姿に見とれていたのだ」
しかし。師は自分の事には全くの無頓着だ。
若く美しい女性に、時には男性に声をかけられても、道を聞かれたくらいにしか思っていないらしい。
「本当に逞しく成長したな、氷河。小宇宙もより深いものになっている」
常に自分達の事を一番に考えてくれる優しい師の事を、どうして好きにならずにいられようか。
すまん、アイザック。抜け駆けさせてもらうぞ…。
ここにはいない兄弟子に心の中で謝り、氷河は口を開く。
「カミュは、俺の事をどう思いますか? 成長した俺を…」
「誇らしく思っているに決まっているだろう? もうお前も立派な大人の男だ」
滅多に褒める言葉を口にしないカミュのそのセリフに、氷河の顔が輝く。
しかし、まだ油断はできない。
「俺を、一人前の男と認めてくれるのですね?」
「ああ」
大きく頷くカミュ。
氷河は最も言いたかった言葉を続ける。
「カミュは今、恋人はいますか? 好きな人は…」
「何だ、急に??」
思わぬ展開に首を傾げるカミュだったが、氷河の真面目な表情に気付き、それ以上の言葉を飲み込んだ。
「恋人、いるんですか?」
「今はいないが…」
「年下ってどうですか?」
「? 別に。相手次第だが…」
一言、一言、探りをいれるかのように質問を投げかけてくる氷河に、カミュは怪訝な顔を隠せない。
「ここまで言っても、まだ分かりませんか?」
「???? 何がだ?」
顔中に?マークをちりばめて首を傾げる師に、氷河は回りくどい言い方をしてしまった事を後悔した。
やはり、ここは男らしくストレートにいかなければ、カミュには全然伝わらない!
「カミュ。俺はあなたの事が」
カミュ!!!
まさに、氷河が思いのたけをぶつけようとしたその瞬間。
空間を裂くかのような第3者の小宇宙が、2人の間に割って入ってきた。
聞こえるか。カミュ!
「この声……。まさか、シャカか?」
すまんが、次元の狭間のねじれた場所に落ちてしまってな。手助けしてもらえないか?
いつかどこかで同じような状況があったような。しかも、その時はムウに助けを求めていたはず…?
「わたしでいいのか? ムウの方がよっぽど…」
いや。君は今、日本にいるのだろう? わたしもそちらに用があるのだよ
「分かった。待っていろ」
そう言って、シャカの小宇宙を探る自分の隣りで、神に近い男に殺意を覚えている男がいる事に、カミュは気付いていなかった。
続く。