☆矢小説
□ROSIE(氷河×カミュ)
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「我が師、カミュよ!!」
人込みの中、女性陣の歓声に交じって聞こえてきた声。
カミュは、ハッとなってその声のした方を振り返った。
「カミュ!!」
「おお…」
そこには、カミュの愛し子・キグナスの氷河が立っていた。
光り輝く金髪に、透き通るようなブルーの瞳。少し、冷たい印象のある整った顔立ちに、今は薔薇色の笑顔が見える。
「氷河!」
クールなはずの男は、感極まってそう叫んでいた。
胸に飛び込んでくる愛しい弟子を抱き締めようと、両腕を伸ばしたカミュだったが。
「!!!!!」
「お会いしたかった。カミュ!」
なぜか、すっぽりと厚い胸に包み込まれてしまい、思わず目を白黒させた。
「やはり、あなたは世界一美しい…」
しかも、聞こえてくる声は頭の上からだ。
「氷河、お前…」
小さかったはずの弟子を見上げ、呆然とカミュは口を開く。
「あれから25センチも伸びたんですよ。もう、あなたを追い越してしまいましたね…」
心底、嬉しそうに言う氷河に、カミュは何とも言えない複雑な心境になった。
いつまでも子どものままだと思っていた弟子が、自分より大きくなる日が来ようとは…
「もうすっかり大人です。あなたに釣り合う男に、早くなりたかった」
「生意気な事を!」
「子ども扱いしないで」
「そんな顔をしているようじゃ、まだまだ子どもだな」
膨れっ面の氷河に、カミュは少し安堵感を覚える。
身体付きも顔付きも別人のように凛々しくなってはいるが、見せる表情は少しも変わっていない。
腕に抱き込まれた時は、一瞬、ドキッとしてしまったが…。
格好だけは大人になっても、中身はまだ小さな子どものままか…。
普段はクールなくせに、慣れた相手にだと表情をコロコロと変えてみせる氷河に、本質は何も変わっちゃいないと、微笑ましささえ感じられるカミュだった。
ここに親友のミロがいれば、お前とおんなじだとツッコミが入っただろうが、彼は現在、聖域だ。
「しかし。どうしてわたしが日本に来たのかが分かったのだ? お前に会いに行く事は誰にも話してはいなかったのだが…」
「あっ。それは…」
その時になって初めて師弟は気が付いた。自分達を取り囲む人の群れに。
しかも、カミュと氷河が振り返ると同時に、人々はわざとらしくパッと顔を反らせた。
「???」
不自然な間が空いた気がして、師弟は首を傾げる。
人々の頬が、なぜか赤いのは気のせいか…??
「そうだ。どうせなら、東京を案内しますよ! 城戸邸に行くのは、別に夜でも構わないでしょう?」
「ああ…。そうだが」
「じゃあ決まりだ! 行きましょ、カミュ!」
そう言って、すぐに自分の鞄を奪って歩き出した氷河に、カミュはまったく…とため息をついた。
しかし、その目は優しい形に緩んでいる。
「ほら。早く!」
氷河がすっと右手を差し出す。
はるか昔、自分がかつてそうしたように。
「……」
じっと氷河の顔を見て、3秒。
カミュはそっと左手を伸ばした。
繋がれる手と手。伝わってくる熱。2人とも氷の聖闘士なのに、身体は熱を帯びている。
「!」
カミュは隣りを歩く横顔を思わず見上げた。
氷河は素知らぬ顔で、前を向いたままだ。
「……………」
絡められた指にぎゅっと力を込められ、カミュの頬は信じられないくらいに赤くなっていた。
続く。