小説(版権)
□雪化粧
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冥界にも雪が降る。
ここ白玉楼に植えられている無数の桜が満開になる春がやってくるのだから、いくら冥界といえどしっかりとした四季が存在するのだ。
夏には草木が茂り、秋には綺麗な紅葉が見られる。
そのため庭師の私は春、夏、秋と仕事に追われてしまう。
でも冬はだけは別で。
寒いし、雪かきという重労働はあるものの、一面真っ白な世界になるこの景色を私は以外にも気に入っていた。
桜が満開になり一面桃色に染まる景色とはまた違った風情と美しさがあると思うから。
そして、あの方と近くに居る時間が増える季節だから・・・
【雪化粧】
ある冬の日の事―.
庭に広がる真っ白な世界を眺めながら、茶の間でお茶をしている時だった。
「ねぇ妖夢、桜・・・見たくない?」
「え?今なんとおっしゃいましたか?」
今発言されたのは、西行寺幽々子様。
白玉楼の主であって、私はここで庭師として、そして護衛として仕えている。
「失礼ですが幽々子様、今は真冬ですよ?」
「・・・そうなのよねぇ」
「おとなしく春まで待ちましょう?」
以前のように開花のために春を集めてどこかの巫女や魔法使いに乗り込まれては厄介だ。
なにより、幽々子様に危険が及ぶようなことは避けたい。
そんな私の思いも露知らずか、幽々子様は諦めていない様子でいた。
「もうこの真っ白な景色は見飽きてしまったのに・・・」
「・・・」
「なにより寒いのよねぇ・・・」
「・・・残念ながら冬とはそういうものです」
案の定、桜が見たいと言い出した理由はハッキリ言ってしまえばくだらないものだった。
「あ、そういえば・・・」
「どうしたの妖夢?」
ふと、あることを思い出した。
幽々子様はパッと目を輝かせ、期待に満ちた目を向けてくる。
「実はこの間の宴会の時に、博霊の巫女から幻想郷に温泉が湧いたと聞きまして・・・」
「まぁ!温泉!?」
「外にあるので露天風呂というのだそうですが、冬になってからは雪を見ながらの雪見酒をいただくというのが風流とされて流行ってるそうです」
「あら、そんな楽しそうなことが流行ってるなんて紫達教えてくれなかったわよ?」
「私達はこの間の異変の時に干渉しなかったからじゃないですか・・・?」
「んー、まぁそれはともかくとして温泉に入りにいきましょう♪」
主に満面の笑みを浮かべて言われた要望に対し、私はただ「はい」としか答えることが出来なかった。