小説(版権)
□九夏の前に(キリリク小説)
1ページ/3ページ
もうすぐ8月…
夏休みがやってくる。
【九夏の前に】
「…ふぅ。今日の分の書類整理も大体終わりね。」
放課後、ヒナギクは一人で生徒会の仕事をしていた。
例の如く、生徒会3人組は早々に帰って(サボって)しまい、結局膨大な仕事を一人でやるはめになっている。
「それにしても暑いわねぇ…クーラーはあるけど環境の為にあまり低くしてないし…」
どうにもならない暑さへの文句をこぼしながら、ふと書類に目をやる。
「…あ、これ海浜学校の予算の書類じゃない…また馬鹿みたいに高い予算組んでるじゃない…」
白皇の海浜学校は専用のチャーター機で、白皇私有の島に行くために参加費が異様に高く、参加が希望制なので毎年参加する人は少ない。
ヒナギクは飛行機に乗りたくないがために不参加である。
『…べ、別に費用があまりにもかかるから行かないだけよっ!?』と、いう声が聞こえてきそうではあるが。
そんなわけでヒナギクの夏は大体学校に登校し、生徒会の雑務と部活といういつものお決まりのようなパターンのものになる。
普通の生徒の宿敵である宿題も開始夏休み3日ほどで終わってしまう。
きっと今年もそんな充実はするだろうけど、新鮮味もない夏休みがくるんだ…
そう思うと暑さがいっそう欝陶しく感じた…。
「でも、海かぁ…夏だし飛行機に乗らないなら行きたいものねぇ…」
天井を眺めながらそうつぶやくとギシッ、と椅子が軋んだ。
その日の帰り道。
もう夕方なのに、まだ暑さが残る。
なんとなく家にまっすぐ帰る気分にならないヒナギクは、噴水のある公園でベンチに座りジュースを飲んでいた。
目の前では子供たちが汗を飛ばしながら楽しそうに遊びまわっている光景が広がっている。
そんな姿を微笑ましくも思いながら、ふと物思いにふける。
「夏休みかぁ…部活に生徒会の仕事、家の手伝いに宿題…やるべきことは沢山あるけどなんか欠けてる気がするのよね…」
『欠けている』
このコトが何なのかわからなく、ぼぉーっと目の前の光景を見つめていると、
「歩は夏休みどう過ごすのかしら…」
ふと一番に思い出した相手は、最近気になりだした西沢歩のことだった。