小説(版権)

□ある一日。(歩×ヒナ)
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お互いがハヤテ君への気持ちを空の果てに捨ててから…


私達は本当に好きな相手を再認識した。


それは今まではライバルで、学校は違えど同じ高校生同士で、友達…なはずだった。

いつの間にか惹かれあってたんだと思う…自分達でも気付かないうちに。


そんなこんなで結局、西沢歩と私、桂ヒナギクは付き合うことになったけど…

付き合い始めて3ヶ月。

一つだけ、すごく気になることがある…



―――ある一日。



「…ねぇ、歩」

「ん?なにかな、ヒナさん?」


呼び掛けると私の部屋に遊びにきていた私の恋人が読んでいた雑誌から目を離し、こちらに視線を向ける。

(くっ…その無防備な上目使いはなんなのよ!…可愛いじゃないっ///)

「…?どうしたのかな?」


ベッドに寝そべっている歩に対し、机の前のイスに座っているヒナギクにとって高低差の関係から自然と上目使いが向けられる。


「あ、えっとね!えっと…やっぱりなんでもないわ!」

「えー!今ヒナさん何か言いたそうな顔してたよね?」


…っ。胸にチクリと言葉が刺さる。

まだ私のことを“ヒナさん”って呼ぶのね、歩は。


きょとん、と首を傾げている歩を見ながら思う。


付き合ってから3ヶ月、会う時間が前より少し増えて、こうやって家にも遊びに来るようになって、手を繋いだりもした。

まぁ…そこまでしか進んでない関係だけど、私はこの関係の進み方の遅さが実は気に入っていたりする。

けど一つだけ気になること。

それは恋人の私に対して未だに“さん付け”で呼ぶことで…


「歩はさぁ…私に対する呼び方を変えようとは思ったりしたことないの?」

「ふぇ?呼び方?」

「べ、べつに今の呼び方でもいいんだけどねっ!ただっ…歩はどう思ってるのかちょっと知りたいなぁって思っただけよっ!?」


『本当は呼び捨てで呼んで欲しい』なんて自分から言うつもりはない。

自分から言うなんて負けてるみたいで絶っ対に嫌だから。


だからそれとなく聞いてみたけれど…


「ん〜ヒナさんはヒナさんだからね♪呼び方は変えないつもりだよ?」

「ぁ…そ、そっか…」


あの無垢な笑顔で迷いもなくそう言われちゃったら何も言えないなぁ…

はぁ。私だけ悩んでるなんてバカみたい…



そして数時間後――

「じゃヒナさん、そろそろ帰るね?」

「うん。またいつでも来なさいよね?」


夜ご飯の時間も近付き、外も暗くなり始め、歩は帰ることにした。


「うんっまた来るね♪お見送りありがと♪」

「もうすぐ暗くなるし、気をつけてね?」

「大丈夫!いつも心配してくれてありがと、ヒナさん♪」

チクリとまた胸が痛む…

(あの時、素直に呼び捨てで呼んでって言えていればこんなに辛い気持ちにはならなかったのかな…)

自分ではちゃんと笑っていたはずなのに、やはり悩んでいることが影響し、どこか態度に出ていたみたいで。

歩はヒナギクの顔を見て、自転車に一度乗りかけたのにそれを止め、ヒナギクに向かって歩いてくる。

少し俯いて、早足で向かってくる歩の表情は見えなくて…


「…え?どうしたの歩?まさか忘れ物でもっ…きゃっ!?」

ぎゅっ

「…好きだよ、ヒナ」

んっ…

「〜っ///あ、歩っ!?///」

一瞬何が起こったがわからなかったが、抱き締められて、耳元で囁かれた後、頬に触れるだけのようなキスをされたみたいで…

(キ、キス!?その前に呼び捨てって…///)


「あはは、やっぱ照れるね//じゃまたね、ヒナさん♪」

「ぇ!?歩、待ちなさいよ!」

声を掛けた時には歩はもう自転車に乗り、こぎだしていた。

「ちょっ!?…あー本当に行っちゃった…」



顔を赤くしながら私はその小さくなっていく姿を見つめているしかなくて…


「なによ…歩、気付いてたんじゃない。なんか負けたみたいですっごく嫌…」


嬉しさと驚きの余韻が混じりながら、負けず嫌いが発動して不機嫌になってしまった。

けど、何故かすぐに笑みがこぼれる。

「…ふふっ、初めての呼び捨ては嬉しかったけど、やっぱりいつも通りの呼び方が心地いい気がするわ♪」


遠くなる恋人の姿を見つめながら、一人結論を出すヒナギク。

こうして二人の関係がまた少しだけ甘く進展した一日でした。



fin.
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