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□想いを曼珠沙華に
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濡羽色の墓石の前に
何も生けてない漆黒の花瓶が置かれている

そこに墨色の着物を纏った男が佇んでいた

その手には、一輪の
深緋の曼珠沙華―――

男は曼珠沙華を供え、
口ずさんだ

『赤い花なら 曼珠沙華
  和蘭屋敷に 雨が降る
   ―――』

「待たせてごめん
  今行くよ」

男は鉛色のナイフで
自分の胸を突いた

濡羽色の墓石を
鮮やかな紅い飛沫が濡らす

倒れる肢体

―――おかえり―――

永遠(トワ)の眠りについた男の顔は
幸せに満ちていた

否―――

目が覚めたらきっと
彼女が迎えてくれるだろう―――
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