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□光なき闇でも
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暗い廊下には、長い間放置されたもの独特の黴臭さと埃っぽさに覆われていた。
しかし、そんなものに今更怯むはずもない蒼灰色の瞳を持つ青年は油断を許さない状況にいた。
辺りに群れる魔物は下手をしなくても月の涙で降りてきた魔物よりも強く、下手をすれば天国に一番近い島や地獄に一番近い島に匹敵するだろう。
浅く息を吐き、魔物の気配を探る。ここは塔の約58階。頂上まであと少しだ。

「サイファー」

吐息に混ぜるような自然さで彼の名前を呼ぶ。その存在がすぐ傍にいるのが理屈ではなく当たり前なのだというように。

「スコール」

返ってくる声も自然だ。
それは確信に近い信頼だ。自分はモンスターを駆除しながら、相手には爆破するための時限爆弾をしかけて貰っていた。

「やはり、上に行けば行く程モンスターも強くなってるみたいだな」

どうしようもなくてこずるレベルではないが一人で相手するには油断ならない敵だ。しかも相手は数に任せて襲ってくる。
数だって、溢れて追われたモノが階下に下りるのであって、しかも次から次へと生まれてくるだけあって上に行けば行く程数も強さも多く強くなる。
まぁあちらこちらで共食いというか食物連鎖の様なものが見られるが。

「とにかく研究所まであと少しだ。後は一気に行くぞ」

「ああ。了解」

一応ある程度モンスターは駆除しながらの強行軍ではあるが。
何といっても数が半端ない。塔の付近にもキリがないほど群れていた。
これはもう塔ごと爆破するしか方法はない程だ。

「……一体ここは何なんだろうな」

新しいようにも見えれば古臭くも見える。
何のための研究か、無人の塔からは何も分からない。

「さてな、研究してた奴もてめぇで作ったモンスターに食われて終わり。そんなとこじゃねぇか?」

「そして真相は闇の中、か?」

「ま、研究所まで行けば何か研究資料でも残ってるかもな?」

多少投げ遣りなのは、そもそもそこまで任務内容に入ってないからだ。
必要とあればガーデンに資料なり何なり送り付けもするが、生憎理由等より余程、生まれてくるモンスターの情報のが欲しい。
ある程度は自分で纏めてはいるけども。
とにかく今は余裕がない。
報告書など任務が終わった後にゆっくり、なんて考える事さえ出来ない。
なるべく、爆破する前に事を済ませたいところ。
調べたところ、塔自体が研究所の原動力となっており、同時に破壊しなければモンスターの増殖を止められそうにない。
用意した爆弾は時限式。セットした後は時間内に脱出する必要がある。
崩れる塔の範囲外からも。
悲観的になる訳ではないが正直厳しい。変に知恵のあるものがいるのでそう多く余裕を持たせられないのだ。

「セットした爆弾の時間もある。急ぐぞ、サイファー」

「イエス・サー」






ヴ、ヴヴヴ……
低い機械の稼動音が響く。時折聞こえる粘性のある水音は、新たに生まれたモンスターのものか。
生まれたてを無慈悲と分かりながらも仕留めて行き、たどり着いた資料室。
黙ったまま分厚い紙の束に目を通す二人。

「これは…」

研究を始めた切っ掛けなどこの際どうでも良い。
どうせ狂ってるとしか良いようのない話だ。
それより問題なのがその結果。モンスターを際限なく生み出す方法。

「こんなのが漏れたらたちまち戦争が始まるぜ」

傭兵の立場からしてみればなんだがそれは巧くない。

「分かっている。この資料はここで廃棄する。生み出したモンスターの情報だけをガーデンに送るぞ」

今まで自分なりに纏めた資料と共に研究所の携帯端末を使って資料をガーデンに送る。
そしてここからが正念場だ。
研究所周りのモンスターだけは駆除し、爆弾をセットすると約60階を一気に掛け降りる。
こちらに気付き、襲い掛かるモンスターをガンブレードを駆使していなす。
止めをさしたかどうかなど確認する余裕などない。

「グルァアッ!!」

何匹かめの火の粉を振り払い、足を前に踏み出す。
後ろを振り返ったりはしない。彼は間違いなく傍にいるから。

「さ、て…どうやら地獄の門番とやらのお出ましだな」

ハイペリオンを肩に担ぎ、不敵に眼前を見据えるサイファー。その口元は凶悪に吊り上がっている。
それを横目でチラリとみやると、スコールは黙ってライオンハートを構える。
辺りには渇えて凶暴性を増したモンスター。目の前にはただでさえ大きいモンスターの数倍ものデカさを誇る親玉。

「サイファー、時間がない。ここは一気に叩くぞ」

言うと同時に地面を蹴る。
それを境に襲ってくるモンスター達をライオンハートで薙払い、切り付ける。
死角から飛び掛かろうとするものはハイペリオンで地に伏し、サイファーを狙うものには容赦なく連続剣を食らわした。
粗方片が付き、血の海に立っているのはスコールとサイファー、そして親玉のみだ。

「さすがにまだ倒れちゃくれねぇな」

相手にもそれなりに深手を負わせているが、こちらも無傷とはいかない。
既に二人の衣服には返り血だか己の血か判別つかないほど赤く染まっている。

「ッ!!」

一匹になって更に凶暴性を増したモンスターの爪がスコールの頬を掠める。
その場を飛びずさって距離を開けるとグイッと傷から流れる血を拭う。
時間がない。僅かに焦りが生まれる。
落ち着け。俺は誰だ?SeeDだ。SeeDとは常に冷静であれ。

「スコール」

研ぎ澄まされた聴覚が愛しい者の声を拾う。
そうだ。一人ではない。
足場をぎりりと固め、改めてライオンハートを構える。
背後で爆発音が轟く。次いで崩れ落ちる音も。
だが恐れるな。傍らには何より信頼出来るヒト。
鳴り響く轟音は崩壊への輪舞(ロンド)。
踏み出した足がライオンハートを握る腕が地を唸らす咆哮が。目の前の敵の脳天を貫いた。
黒い影はすぐそこまで迫っている。

「スコールッ!!」

転がり落ちるように着地したスコールを、サイファーは抱き留める。直後、新たな爆発が鋭い閃光を生み、閃光は二人の目を激しく焼いた。
そして覚悟していた衝撃と痛み。
激痛が腹を、胸を、腕を刺し貫いた。
濡れた感触が相当の出血だと教えてくる。出てく血と比例して凍える体温。

「サイファー…」

焼けた目は何も映さなかったけど、包まれている感触が一人ではないと告げていて、それならば、と内心どこかで安心しながらスコールは細くなってきた意識を手放した。

お互いの身体はお互いの血で赤く染められ、滲み、全て混ざり合えば良い。
恐れるなら額にキスを送ろう。もう声にして伝える事は叶わないけど。

遠くなる意識。霞む視界。痛みはもうどこにも感じなかった。





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