*FF[*

□光なき闇でも
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ものを書くペンの音、書類を捲る紙ずれの音。そんな音が支配する夜中の指揮官室。
いつも補佐してくれる金髪の女性は既に部屋に帰し、残ったのは伝説のSeeDと元魔女の騎士。
いつだか能天気な幼馴染が終わらぬ書類の山を見て、果て無き書類と揶揄ってくれたが。それが洒落になっていないこの膨大な仕事量。
不意に物を書く音が消えた。それは珍しい事だ。そう補佐官であるサイファーは思った。
優秀すぎる、補佐すべき指揮官で恋人のスコールの手が止まる時は何か、そこらのSeeDが束になったところで手に負えない出来事があった時。案の定、

「サイファー」

困った様に名前を呼ばれ差し出された1枚の書類を見て俺は軽く目を見開いた。



人はそれを、

   愚かと笑いますか?




この日、故意か偶然か。ガーデンの運営に大きく関わる魔女戦争の英雄、というか幼馴染の殆どが大小差はあれど任務に着いていた。スコールを補佐すべき立場の教師であるキスティスも、セルフィ、ゼル、アーヴァインといった面々すらも体良くというかガーデンの外に追いやられていた。

「ゼル、セルフィ班、只今より作戦を開始します。これより24時間、定時連絡は一時不可能になります」

『そうか、了解した。十分気を付けてくれ』

インカム越しに抑揚のない聞き慣れた指揮官の声に、型に嵌った報告を打ち切っていつもの砕けた調子で軽く愚痴を零す。

「ったくよ、何の研究だか知らねぇけどうっかり捕まえてたモンスター逃すなって感じだよな!モルボルまでいるんだぜ?」

『そう言うな、下らないいざこざは平和の証だ』

らしくない肯定的なスコールに、ゼルは一瞬疑問符を浮かべたが滅多にないスコールの気まぐれかと流そうとした。だが、続いたスコールの発言に今度は容赦なく目を見開いたのであった。

『たとえ失敗したところで人は死なない。拙いと思ったらさっさと見切りをつけて逃げろ』

言ってはなんだが、任務一番と言いそうなスコールからは考えられない事である。ゼルは瞠目したまま通信を切ると、声を掛けて来たセルフィにあいまいな返事をして拭えない嫌な予感に身を浸したのであった。
しかし、どんなに願ったところで当たって欲しくない予感ほど妙に的中してしまうものなのだ。
任務を終えてガーデンに戻ってみると指揮官、補佐官両名共任務に着き、しかもその任務は極秘扱い。最高ランクSeeD2名がつく任務とは?キスティスは、最後の通信でスコールにガーデンを頼むと言われた事が気になっているらしい。
SeeDとしてはいけない事だが、不安に後押しされるようにゼル達は指揮官室の端末でスコールとサイファーが着いている任務を確認した。



特筆すべき点

第一の任務はとある塔の破壊。依頼人によると塔から大量の新種のモンスターが現れるという事だ。派遣した調査員は一人を除いて全滅、その一人も重傷を負った。
調査員の話では、塔の頂上付近が何か研究所のようになっていて、そこで新種のモンスターが自動的に作られている。誰が、どのような目的で作ったのかは不明。塔に生きている人の気配は無し。
任務内容はラボと塔の破壊、その際モンスターの駆逐。塔の付近に民家等はない為破壊の方法は爆破になる。
モンスターは今までいたモンスターより強敵となる。なるべく多くのモンスターを駆逐しながら塔の頂上に行く事は困難。ラボの破壊時、そのモンスターと戦闘しながらの破壊行為は困難。塔の規模から、倒壊の影響から逃げ出す事も困難。生還は極めて困難と思われる。
よって低ランクのSeeDは不可。学園長との相談の必要有り。



几帳面なスコールの筆跡。書かれた内容の驚愕すら感じさせない淡々とした文。
さっと青褪める幼馴染達。間違いなくスコールとサイファーはこの任務に向かった。何故?きっと全員がそう思った。何故彼らがその任務に就かなければならない?SeeDとして彼らの実力は十分で、ガーデンの運営にだって大きく関わるというのに。最早ガーデンにとって彼らは必要な存在だというのに。ガーデンの事を一番解っているのも彼らの筈なのだ。

「学園長に、確認に行きましょう…」

長い沈黙の後、キスティスが提案する。

「そ、そうだよ〜!はんちょ達、本当にこの任務いっちゃったの〜?」

「そんなの!俺達に何も言わずに行くもんか!」

「水臭いって言うんだよね〜、僕等に何も言わないなんてさ〜」

それぞれ動揺を隠して、他のガーデン生には何事もなかったかのように学園長室に入る。学園長は、やはり来てしまいましたかと言いたげな顔をしていた。

「学園長!スコールとサイファーが向かった任務というのは…!」

形式的な挨拶も儘ならず、詰め寄るキスティスに落ち着く様に指示を出す学園長。

「皆さんがここに来たという事は、スコール君の依頼書を既に見たという事ですね?」

「はい!いけない事だとは思いましたが、余りに二人の様子が可笑しかったものですから…!」

顔面蒼白の、嘗て妻の孤児院で養っていた子供達。学園長は息を長く吐き出すと、

「スコール君が依頼書を持って私の所に相談に来た時、二人の意思は最早覆せぬほど固まっていました…」

思い出されるのは決意の固まった、反論を許さぬ無表情。この時初めて、とんでもない相手を指揮官にしてしまったのではと思った。

「彼が言うには新種のモンスターを放置しておく事は危険。この任務は何が何でも受けなければならない。との事でした。しかし生存の見込みは並みのSeeDでは全くゼロ、と言って差し支えないでしょう。それどころか任務すら遂行出来ません」

依頼書を片手に常時と変わらぬ姿勢を崩さないスコールは、相談という形を取りつつ学園長の意見を聞くつもりは無い様だった。

「この任務を任せるという事は、死んで下さいと言っているようなものです。それ程この任務の生還率は低い。彼にはそれを誰かに任せる事ができなかったのでしょうね」

「そうだとしても!何も二人が行く事ないじゃないですか!!」

抗議の声にも学園長は悲しい顔をするだけで、ゆっくり首を横に振る。

「スコール君が言うには、ガーデンは既に指揮官がいなくとも運営に困らない体制を取っているとの事です。そして生存の確率が低いというなら、少しでも可能性のある自分達が行くべきであると言いました。任務とは、死ぬ為に行くべきものではないと…」

並みのSeeDが駄目であれば、並ではない自分達二人でその任務に就くべきであるとスコールは言った。

「サイファー君も同じ意見だったそうです。尤も、彼はスコール君が行くと言ったなら迷わず着いていったのでしょうが」

「スコール…」

「スコールはんちょ、サイファーはんちょ…」

幼馴染の名を呟きながら拳を握り締めるガーデンの執行部。

「結局、私達に出来る事はただ彼らの無事を祈る事だけです。…この事は極秘扱いですから、他の生徒にはくれぐれも内密に…」

分かりましたと、意気消沈な様子の子供ら。学園長はただこの心配が杞憂に終わる事を望んでいた。



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