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□季節外れの冷たい雨
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しんしんシトシト、雨が降る。
梅雨の湿った降り続く雨。
夏の僅かな間に振り切る雨。
秋の変わりやすい雨。
冬に降る冷たい雨。
ザーザーパラパラ、雨の音が止まない。一日中降り注ぐ雨。
雨は、嫌い。特に季節外れの冬の雨。あの冬の日も、雨が降っていた。
置いて行かないで。雨音に紛れて泣いた。頬を伝う雫が紛れて消えた。
別れ際に会う事もなかった、突然いなくなった彼女。
行き場をなくした願いは歪んで捩れて渦巻いた。大丈夫。一人で生きていける。こうして誰もが居なくなるなら、初めから誰もいらない。
ただただ雨が降り続ける。
しんしんシトシト。
一人でいい、一人がいい。
パラパラぴちょん。
それなのに、いつの間にか隣にいつもいる。
怒った顔で、悲しい顔で。

泣くな。
オレじゃだめなのか?
スコール。
代わりにもなれないのか?

代わりのあんたなんていらない。離れていくものなど欲しくない。
永遠なんて信じない。だけど永遠を下さい。
矛盾した願いに混乱する。置いて行かれる。一人ずつ。雨音が皆を拐っていく。分からない。けど頭が痛い。雨音も止まない。
居るはずなのに、あんたの声も聞こえない。
雨は嫌い。オレから全てを奪っていく。
一人がいい。そう思ったはずなのに、いらないと思ってたのに、隣にいるはずの気配を探してしまう。
自然の前では人は無力で、止まない雨を止ませる事は出来ない。
シトシトぴちょん。
オレ達全員がこの時期の雨を厭う。
いつも元気なゼルとセルフィは空元気なのが丸分かりだし、飄々としたアーヴァインは冗談の数が多くなる。キスティスは偏頭痛がすると笑っていた。
オレは頭痛とヒドイ倦怠感で起き上がる事すら難しい。
そしてあいつは、サイファーは、オレをしっかり抱き締めて、一瞬たりともオレを離そうとしない。
ザーザーシトシト。
雨が止まない。それぞれの想いを胸に、小さなトラウマを更に抉って。
早く雨が止めばいい。雨が上がったら、二人でバラムに釣りに行って、寒いなんて言いながらバカみたいに笑って。離さないと抱き締める腕の強さと同じぐらい心も縛って。一人なんて考えられない程強く縛って。
早く止めばいい。
それでも降り続く季節外れの雨。しんしんシトシト。
あいつもオレも苦しめる。
雨は嫌い。無力だった自分を苦しめる。
嫌い。あの頃の自分を思い出させる。

分厚いカーテンの向こう、灰色の空がしょっぱくない涙を流す。
後ろからすっぽり抱え込むように抱き締められる。
雨音は消えない。胸に回った腕も、

まだ外れない。

痛い程力強く抱きしめた腕が、

一瞬たりとも離れない。




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