*FF[*
□世界を捨て何を得る?T
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「サイ、ファー…」
最期の灯火のように名前を呼ぶ。彼はどうなった?彼も時間の歪みに落ちてしまったのか?ずっと彼と一緒にいた風神と雷神はラグナに頼んで安全な場所に避難して貰っている。彼を助ける暇などなかったはずだ。間違いなく彼はここにいる。
「…ファー……」
渇いた喉から擦れた声が出る。彼以外いらない、彼以外分からない。最早仲間の事も、黒髪の少女との約束も、少女の顔さえ思い出せない。いや、思い出そうともしていない。
ずっと彼に、彼だけに恋焦がれてきたのだ。それこそ幼い頃から。
一目見た時から彼だけにひかれた。それでも素直になれない自分はエルオーネの後ろに隠れていたが。
彼女がいなくなった時、本気で怒ってくれた彼。自分は何処にも行かないと言ってくれた大嘘吐き野郎。貧弱であった自分を、心身共に守っていてくれたあんた。彼がいないなら、世界など戻る価値もない。
「あんた、どこ…?」
あんたに会いたい。ただ会いたい。会って嘘吐きと罵って、その時は素直に涙なんか流せそう。
会いたい。あんたのところに帰りたい。
それだけが頭を支配する願望で、それ以外は本当にどうでもいい。もし彼を見つけられないのなら、このままのたれ死んでもいいと思うほど。
帰れない、帰りたい。あんたの隣に。
そう、ただ願った。
「会いたい……」
一陣の強い風が吹いた。一瞬目を閉じ、再び前を向いた時景色はガラリと変わっていた。
果ての無い荒野をひたすら歩いていた筈なのに、今は崖っぷちに立っていた。崖下は海だった。
「あぁ…」
見慣れた白いコートが飛び込んで来る。こちらに背を向け、気付きもしない。
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