深淵

□編曲abyss 独奏2
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「現在、ローレライ教団内は一部の関係者以外の立ち入りを禁止していますが…今回は『一部の関係者』が同行しているので、まあ問題ないでしょう。
ここからは貴方に任せますよ、アニス」

「はぁい。それじゃあ、私の後についてきて下さいね〜」


ダアトに足を踏み入れると想像以上に人がいなかった。
以前は信者で溢れかえっていたのが遠い昔のようだ。
2年という空白の時間を見せつけられた俺は、死霊使いとガキの会話を聞き流しながら今から会う人物に思いを馳せていた。


「神託の盾騎士団第六師団長…『仁愛のカンタビレ』か」

「ええ。さすがに知っていたようですね」


つい呟くと死霊使いが食いついてきた。

それはそうだ。騎士団員の間でも不名誉な人物で有名だったからな。


仁愛の『じんあい』を『塵埃』…つまり、ちりホコリとかけて皮肉にされるくらい使えない奴らしい。
そんな奴がが未だここにいられる理由がわからない。


「あの騒動の中でよく切り捨てられずにいたものだな」


詳しくは知らない。
会ったこともないし、あえてカンタビレの話題を避ける連中ばかりだったし、俺自身興味がなかったからだ。
無能に用は無い。
だから知っていることと言えば、第六師団長で二つ名が仁愛だということ。
それと教団内の鼻抓み者だということだけだった。

今更その無能に何故会いに行く必要がある?


「その様子では、大抵の方々と同じように彼女の本質をご存知ないようですね」

「彼女?女だったのか」


初耳だ。


「おやまあ、それすら知らないとは」


馬鹿にしたような死霊使いの手振りに苛立つが、すぐに疑問のほうが湧き上がった。


「なんでマルクトの人間が教団員の素性を知っている」


マルクトとキムラスカ、そして教団それぞれが互いに秘密主義で王族や大貴族を除けば一兵士、一関係者について詳しく知る機会は戦争で鉢合わせた場合くらいなものだ。

―――この眼鏡に関してはいろんな意味で有名過ぎて、子供でも『死霊使い』の名は知っている。
むしろ知らないやつのほうが少ない。


「そう落ち込まないでください。種明かしをすれば、私もこの間知ったばかりです」


誰がいつ落ち込んだ。


「どうでもいいが、そいつに会わせるためだけにここに連れてきたんじゃねえだろうな」

「もちろんそのためだけですが…帰るのは一目会ってからにしなさい。私が意味の無いからかいのために貴方を連れてきたと思いますか」

「……誰も会わないとは言っていない」


女だろうが男だろうが、カンタビレ自身には興味がなかった。

だが、マルクト皇帝の懐刀とまで言われたこの曲者が重要視するくらいなら『なにか』を知っているのかもしれない。

以前よりかはカンタビレに興味を持ったことは認める。





相変わらず素っ気ない雰囲気のある教団内。
通路を抜け、譜陣のあるホールに出る扉を潜る。
そのまま通り過ぎるかと思えば当然のように立ち止まり、ひとつの譜陣に入った。

この先は譜陣か階段で行く教団上層部の執務室がある。


――――?

教団上層部?
地下の騎士団宿舎に行くんじゃないのか?


「おい」

「質問は後で受け付けます」






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