深淵
□編曲abyss 独奏1
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眼鏡に連れられるまま乗り込んだアルビオール2号機の中は、7人(操縦士込み)もの人間が乗っているとは思えないほど不気味な沈黙が守られている。
誰ひとり寝ているわけでもない。
さっきまで泣き続けていたヴァンの妹もだが、一人俺に話し掛けていたナタリアも雰囲気を読んだのだろう、俺の隣で女を悼ましく見つめている。
ガイは窓からの景色を眺めているし、ガキはいつかの騒がしさが嘘のようにおとなしく縮こまっている。
連中が“あいつ”のことを考えているのが嫌でもわかる。状況的に当たり前だ。
俺が何を言うつもりもないし義理もない。
俺と“あいつ”は当事者で、どちらかが消える運命だった。
その結果俺は剣によって死に、生き残ったはずのあいつは乖離した。
ただそれだけだった。
それで終わればよかったんだ。
それをあの意識集合体が横からごちゃごちゃと自体をややこしくしたせいで、何故かここに帰ってくる羽目になった俺こそが不本意だといいたい。
「青筋が出ていますよ。アッシュ」
「うるせえ!」
わざと人の神経を逆なでるのは言わずとも知れる、死霊使いだ。
こいつだけは常と変わらず、何を考えているか分からない眼鏡ぶりだ。
アルビオールに乗ってからもなにかと興味深そうにこちらを観察する…あの眼鏡が気に食わない。
「じろじろ見るな」
「気になりますか?」
「ならないとでも思ったか」
ふむ、と口をつぐんだ眼鏡が思案に暮れるのを睨みつける。
なんなんだ。
タタル渓谷からずっとこいつは特になにも言わないくせに、ずっと俺の一挙一動全て観察している。
俺のなかに居るかもしれない、『ルーク』を探り出そうとする目で。
嫌気がさす。
もともと、研究者はいけ好かない。
その中でもコイツは最たる者だ。
この眼鏡に少しでも期待したのが馬鹿だった。
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