深淵
□編曲abyss 独奏1
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「―――ここからならホドが見渡せる。…それに約束しただろう…あいつと」
期待から驚愕、絶望に染まる顔を睨みつける。
期待するな。
俺は、あいつじゃない。
「俺は…ルークじゃねえ」
見開いていた瞳から大粒の涙が一筋、頬に筋をつくる。
膝を折って崩れ落ち、女が仲間たちに取り囲まれるのを、俺は心に焼き付けるように見つめ続ける。
自分の中にいるかもしれない『ルーク』に現実を突きつけるように。
俺はお前たちが言う『ルーク』じゃない。
俺に期待するな―――。
それから、興奮状態のヴァンの妹と、対照的に喜色に涙を流すナタリアを周囲が気遣う中、相変わらずなにを考えているか分からない顔で俺を凝視する眼鏡に目を向けた。
「なんだ」
「いえ」
眼鏡のブリッジを押し上げ、まだこちらを見ているのを俺もまた睨みつけた。
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