春雨
□君の隣で
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ケータイのアラームが鳴り響く。本当はもう少し寝ていたかったけど、それでも起きるのは、明日の朝が辛くなるから。
窓を開けてちょっと深めに深呼吸をすれば庭の花の匂いが鼻腔を擽る。
と、同時に昨日の、ケンカしたときの膨れっ面の水谷を思い出して思わず笑みが零れる。電話でも一本入れてやろうか…と思ったけど、ケンカした次の日は水谷は必ず留守電にしてるから、かけても無駄だろう。
そういや、昨日のケンカの原因はなんだっけ…
確か、いつもはキャッチボールを水谷とやるんだけど、その日はまだ水谷が来てなくて。んで、仕方ないから泉とやろうとしたら、ちょうど水谷が部活に来て…
はぁ、こんなくだんないことでケンカしてる俺らって…
でも、水谷と過ごす時間ってこんな感じのばっかだよな。
ただフツーに笑いあって、何気無い会話で盛り上がって…毎日の暮らしの中で、本当にどうだっていいこと。
その積み重ねをただ、大事にしてるだけ。そんな感じ。
何も考えないで浮かんできた言葉とか、フとした瞬間が大切だって、水谷と過ごすようになって解った気がする。
「勇人おはよう」
「おはよう、姉ちゃん。んで行ってきます」
「行ってらっしゃい。頑張ってね」
遊びに行くことは、昨日のうちに家族には言ってある。たまの部活の休みだしね。肩に鞄を引っかけて、自転車に乗る。ついでに、また寝ているであろう、水谷の留守録に『これから行くから』とメッセージを残す。
暫くして、もう少しで水谷の家…ってところになったら、きっとケータイが鳴り出すんだ。まるで何も無かったみたいに
『栄口おはよ!』
って電話してくる、君の声が好きなんだ。