書物の欄 伍

□小さな冬の物語
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 それはまだ私が小二くらいの話――
 雪がたくさん積もって近くの空き地を駆け回っていた。ふと思い立って雪だるまを作ったんだ。
 形ができて、顔を作ろうにも石や枝が落ちていない。仕方なく顔なし・腕なし・帽子なしのつまらない雪だるまになった。
 もちろん1人で作っていたから余計に淋しくなってきた。だから今し方作った雪だるまを壊すことにしたんだ。
 せーのっ、と勢いを付けて雪だるまの胸部に蹴りを入れた。そこまでは何も問題はなかったハズなのに。
「抜けない……」
 雪だるまは仕返しとばかりに私の足をくわえて放さない。
 ちなみに私の格好はコートにマフラー、手袋、帽子だ。つまり下はズボンに長靴。激しく冷たい。
「……何してるの?」
 足を抜こうと奮闘していると背中側から聞き慣れない声が耳に届いた。足はそのままに首だけ振り返ると、呆れたように見る女の子が1人。やはり見たことがない顔だった。
「誰アンタ」
「質問したのこっちなんだけど」
 まぁ、いいや。と言ってその女の子は近付いてきた。こちらとしては首と足が悲鳴をあげているから、どうにかしたいところだが。
「平飴。下の名前は質問に答えたら教える」
「別に知りたくないからいいけど。一応Ωってことで」
「嫌だよ」
 すぐに否定されてしまった。どこに問題があるというのか、いやない。全くない。むしろある方がおかしい(反語だと言い張る)
そもそも教える気がないなら無理に聞かないという優しさがわからないのか、この子は。
「雪だるま壊してたら足がはまった。あ、私はカトリーナって呼ばれてる。個人情報は簡単に流さない派だから教えない」
「ふーん。馬鹿じゃん」
 納得したのかあっさり馬鹿呼ばわりしてきた。初対面の人間に向かってなんてやつだ!
 だから私は当たり障りの無い質問をするのだ。なんてイイコなんだろう。
「残念ながら親は馬と鹿じゃないんだ。それよりΩはどこの小学校?」
「明日から中尾小」
「もしかして引っ越してきた?」
「うん」
 じゃぁまだ友達とかいないのかな。
 あ、当たり障りのあること聞いちゃったじゃん。
「ねぇ。足抜いてあげようか?」
「見返りは?」
「初回サービス。簡単なことにしてあげる」
 本当に見返り求めてきたよ。なんかこの子私と同じニオイがする。気がする。
「友達になってよ。カトリーナ面白いから私の人生も色付きそうだし」
「それだけ?」
「うん。なんなら下女にするけど?」
「友達で」
 あっさりとできた友達。足が抜けるならなんだっていいや。Ωも面白そうだし。



 ――キーンコーンカーンコーン
 チャイムが鳴って私は目を覚ました。周りを見るとオレンジ色の教室が目に入った。中には私とΩがいるだけだったけど。
「あ、おはよう。カトリーナ。今日もずっと寝てたね」
「うん……」
 さっきの夢のせいか、いつになくΩがハイテンションに見える。
 それにしてもリアルな夢だったなぁ。
「何? もしかして寝呆けてる? なんの夢見たの?」
「大丈夫。私たちが初めて会ったときのこと。あの雪だるまの」
 あぁ、と言ってΩも記憶の引き出しを漁っているようだ。
 それにしてもオレンジが目に痛い。おかげで覚醒してきた。
「あの頃から可愛げの無い子供だったよね、ウチらって」
「あの頃からみてΩは明るくなったよね。なぜか」
「カトリーナの影響力ってすごいからね」
 いや、それは無い。そもそも私とΩが明るくなったのとなんの関係があるのかわかんないし。
「それにしても本当に鮮明だったなぁ」
「そんなに? そういえば過去をよく思い出すのって老いた証拠らしいよ」
「あぁ、最近心労がね。誰かさんの彼女モドキになってからかな」
 ハハッなんて笑ってるけど、笑い事じゃないんだよ。こっちは。生き地獄だよ本気で。
「そろそろ帰ろうよ。あ、門間くんは用事があるからって先に帰ったよ」
「いや、どうでもいいよ。それに聞いてないから」
 本当は気になったんでしょー? とか言うからつい鞄を振り回してしまった。あれはΩが悪いんだ!
 そんな冗談を言い合いながら私たちは学校をあとにした。

 曇天からはちらほらと雪が舞い降りていた。
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