書物の欄 伍

□カトリーナ奮闘記(仮)
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 朝早く門間を校舎裏に呼び出した。理由は簡単。誰も知らない門間の本性を暴いた(垣間見た)から。
 それはいいんだけど、「何て言ってやろう」と考えていたせいで寝坊。ブラックリストに名前入りだけじゃなくて、酸味の強いコーヒーの臭い、もとい、時間の経ったコーヒーの臭いがする部屋(あえて職員室とは言いたくない)の常連リストに載るね、きっと。今日は約束の時間に遅れただけだけど。
「門間、お待たせ」
「おはよう、加藤さん。どうしたの? こんな朝早くに呼び出して」
「あぁ、そんな喋り方しなくていいよ? 言いにくそうだし」
「……。なんだ解ってたんだ。莫迦だと思って莫迦にしてたら意外だな」
「悪かったね。莫迦そうに見えて」
「え? 何言ってんの? 莫迦そうじゃなくて思いっきり莫迦にしてんだけど。あ、それ位も解らないくらいの莫迦ってことか」
「遅れてきたのは悪いって言ってるでしょ」
「別にそのことについて怒ってんじゃねえし。ま、それもお前の今後の行動次第だがな」
 黒い! 明らかに普段の門間じゃないって! なんか物申すって決めたのを簡単に打ち砕かれた気分だ!
「で? 私にどうしろっての?」
「なんだ。物分かりいいじゃん。じゃあさ、これから俺の言うこと聞け」
「なんでそんなことしなきゃいけないわけ?」
「テストの成績学年順位後ろから一番。通知票体育のみ五。それ以外すべて一。小テストの再テスト常連名簿入り。遅刻常習犯。学校のブラックリスト入り。過去二年とちょっとの間に壊した窓ガラス六九九枚。壊した壁の数三一五箇所。外したドアの数一九八枚。あ、まだあったな。それから……」
「なんでそんなことまで知ってるの? 君どこまで個人情報流出したら気が済むんですか? てかどこから引っ張り出してきたの?」
「企業秘密」
「ふざけんな!」
 なんでここまで知られてるの? 私だってそこまで詳しく知らないよ? そんな記録残ってたらまず私が消去してるから。
 でも、後一枚で七〇〇枚か。「一枚足りない〜」ってやつですか? 頑張ってあと一枚壊すか。
「とりあえず俺教室戻るから」
「あぁあぁ。そうですか」
「それと、教室行ったら俺に話合わせろよ」
「なんでそんな面倒臭いこと」
「バラすぞ?」
「すみませんでした」
 こうして私は言いたいことも言えない上に(不覚にも)門間の下僕生活を強いられてしまった。

 その日の朝休みからはもう地獄の始まりだった……。私と門間の席は近い。というか、斜め。本当に嫌になる。朝から門間の取り巻きの騒ぎ声のせいで眠れないから。
「おはよう、門間くん」
「おはよう、阪井さん」
「ねぇ、今週末空いてる? もしよかったら……」
「ごめん。今週末は彼女と過ごすんだ」
 その一言でクラス中の女子が門間の方を向いた。皆お喋りしてるようで意外と他の人の話聞いてるもんなんだな。
「も、門間くん彼女いるの?」
「うん。最近付き合い始めたんだ」
「え〜!? 誰、誰!?」
「この子」
 その単語が聞こえたすぐ後に背中に生温かさを感じた。門間が抱きついてきたのだ!
「え? カトリーナなの?」
「うん、そう。ね?」
 私にしか聞こえないだろう小声で「話合わせろよ? さもないと……」と言ってきた。
 まて、こら。今門間のこと誘ったのって、親の臑噛りで女子の間じゃかなり有名だよ? かなり睨んできてるし。
「あ、うん。でも行ってきてもいいよ?」
「ほら、カトリーナもこう言ってることだしさ!」
「でも寂しがり屋なんだ。だから、また誘ってね?」
「うん!」
 阪井は笑顔になったけど、他の女子の視線が怖い! また平和が遠ざかる気がしてならない……。授業中も後ろだけでなく横や前からも刺々しい視線が集中してて息苦しいことこの上ない。地獄だった……。何がって? それはまさに聞くも涙、語るも涙の物語ですよ。
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