書物の欄 参
□Graduate From...
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卒業式。その式の最中に学校の屋上にいる2人の男女。男は学生ではないが、女の方はこの学校の制服を着ている。そしてフェンスに寄り掛かり体育館を見下ろしている
「いいのか?式に出なくて」
不意に男が尋ねた。しかし、その声音には危機感や心配など微塵も含まれていない。むしろ少し楽しんでいるようだった
それに女もいかにもどうでもよさそうに返した
「うん。面倒臭いからいい」
「仮にも自分の卒業式だろ?それに親御さんだって……」
そこまで言いかけて男は口をつぐんだ。と言うより女に視線で制された、と言った方が正しい
「言ったでしょ。両親は極度の放任主義、子供は興味の対象外なんだよ」
そう言った女は少し目を伏せたが、今までと大差ないように言い切った。それはもう諦念を抱いているように
「今日は卒業式だよ。ここのルールから卒業するの。学校だけじゃなく家の規格、社会のルールもね」
そう少しばかり淋しそうに話す女を、男は面白そうに眺めていた
「ふーん。じゃぁこれからどうするんだ?社会のルールから逃れられることができるトコなんて……」
男がまた途中で口をつぐんだ。先刻と違うのは女が何もしていないということ
「そうだね、たぶん無いと思う。でも、1番簡単な逃げ場があるんだよ」
「逃げる、ねぇ。そんなに震えてるくせにか?」
「別にソコに逃げたいわけじゃないんだ。すぐに見つかる答えなんて好まないもん」
少し考えたけどね、と笑って言う女。男は視線で続きを促した
「次に楽なのは金持ちで放任主義の人のところに嫁ぐことなんだけど、そこまでの過程が面倒なんだ」
女はまだ体育館を見下ろしたまま。男はそんな女を眺めたまま。女の声だけがそこに響く
「だから本当に楽なのは社会のルールや波に流されることなんだと思う。なるようになってくれるようにね」
「早い話何もできないし、しないんだろ」
「そう。行動力がなく、口先ばっかりのヤツの言い訳」
身体ごと男の方に向き、ガシャンとフェンスに寄り掛かった
「まぁ、ルールという名の糸に絡み取られた現代人の短い休み時間ってコトにしておいてよ」
「そういうのもアリか」
それから特に何を話すでもなく座りこんでいた2人
小さく吹奏楽の演奏が聞こえてきた
Fin.