書物の欄 伍

□かき氷
1ページ/2ページ


 ミーンミーンと原正……いやいや、腹立たしいほどの蝉時雨を聞きながらカトリーナは自分の机にだれていた。
 前の席に座り、なんとも恐ろしげな表紙の本を嬉々として読むΩの背を見つめていた。が、ついに限界がきたようだった。
「あーつーいー。ねぇアイス食べに行こうよ」
「学生さんがお金ないのは世の定義だよ」
 そんな定義はない、とツッコムのも忘れて駄々をこねるカトリーナ。それにため息を一つこぼし、Ωは後ろを向いた。
「なら恐い話しようか?ちょうどその手の本読んでるし」
 そう言って見せる本の表紙には生々しい生首の絵が。むしろ写真に近い。
 例えば? と問うカトリーナにパラパラとページを繰り、適当なところで止め話しはじめた。
「昔々カトリーナという少女がいました」
「ちょっと待ったぁ!」
 冒頭文しか読んでない、とΩは不満げな顔をした。
「私に何をさせる気ですか? え、こういうのって大抵バットエンドだよね?」
「『バットエンド』じゃなくて『バッドエンド』だよ」
 焦るカトリーナ、落ち着くΩ。端から見たら怪しいだろう。そしていたってどうでめいいことを突っ込んだ。口語では普通気にしないだろうことを。
「それにどっかのカトリーナさんってだけで、今わたしの目の前にいるカトリーナじゃないよ」
 全世界のカトリーナさんの存在消したらダメだよー、と言うΩの顔には邪気は無さそうだった。無い、のではなく。
「………。ちなみに続きは?」
 渋々納得させて続きを促す。いつのまにか立ち上がっていたらしく、腰を落ち着けた。
「え……?聞いちゃうの?」
 本とカトリーナを交互に見やるΩ。表情はかなり不安を全面に押し出していた。
「え、ちょっ!何?いったいなにがあるの?!」
「いいや。なんもないよ?」
 先刻とはかなり変わり満面の笑顔で言うΩに、瞬間殺意を覚えたカトリーナだった。
「でも涼しくなったでしょ?」
「あ、そういえば」
 Ωの言葉に納得したようだったが、再び机にだれた。
「でも心臓に悪かったから疲れたぁ。やっぱりかき氷食べに行こうよ」
 結局こうなるのか、と顔に書いてあるΩを引きずり昇降口へ向かう。少しテンションは上がってきたようだった。
「そういえばさぁ」
 いまだ引きずられながら階段を下りていく途中、Ωが呟いた。
「かき氷って元来飲み物だから『食べに』じゃなくて『飲みに』なんだよ」
今日はやけに単語にチェックがはいるなぁと思いながら引きずるカトリーナがいた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ