書物の欄 伍

□カトリーナ的ピーターパン
1ページ/2ページ


 珍しく起きていた(改め、寝過ぎで寝れなかった)社会科の時間。今流行の「ピーターパン症候群(シンドローム)」について話していたことだけは記憶に残っている。
 終業ベルと共に弁当を引っ掴み教室を出る。もちろん教科担任より早く。
 それから屋上でΩが来るのを待ちながらピーターパンの話について考えていた。
 ガチャッとドアの開く音が聞こえ、目を向けるとやはりΩがいた。おまけで門間も。
「遅かったね」
「カトリーナが早過ぎるんでしょ。先生泣いてたよ?」
 そんなことは知らん、というように弁当のハンカチを解く。そして卵巻きを口に含むと、聞きたかったことを思い出した。
「ねぇねぇ。ピーターパンの話ってちゃんと言える?」
 そう尋ねると2人分の目がカトリーナをとらえた。
「そりゃぁだいたいはね。っていうか大方の人は知ってるでしょ」
「うん。ウェンディと妹弟がピーターパンとネバーランドに行ってフック船長に捕まるけど助かって、3人は大人になりたいから帰ってくる。そんな感じじゃないの?」
 Ωの説明を聞くうちにどんどん険しくなるカトリーナの顔。それに門間は笑顔で尋ねた。
「どこか違ってる?」
「いや、あのさ……」
 いささか言いにくそうに口ごもる。不思議そうな目を向けるΩとは対照的に、門間は明らかに楽しんでいるようだった。
「ピーターパンの主人公って誰?」
「ピーターパンでしょ」
「ピーターパンだから」
 即答する2人にか、返ってきた答えにか、驚きを露にする。タコウィンナーの頭がキラリと光った。
「フック船長じゃないの?」
「タイトルにピーターパンってあるじゃん」
「カトリーナ。お前のピーターパンを言ってごらん?」
 ついに3人は箸を置き、完全にピーターパンにのまれてしまった。
「自分の影を逃がした少年ピーターパン。偽善でぶっとい針を使って影を足に縫い付けたウェンディ。密かに影を踏みほくそ笑む下2人」
「その時点で大きくずれてるから」
「まぁ、最後まで聞いてみようよ平飴さん。で?」
 呆れ返るΩに同情しつつ、門間は先を促した。
「妖精の羽から出る粉で空を飛べると知ったフック船長は妖精狩りを始める。それで、毒を盛った罪で裁かれると嘘をつき羽をむしり取ろうとした
また、異常気象で生態系が壊れてお腹を空かせた鰐のために悪童3人を餌として与えようとした。その時ピーターパンが勝手に人様の船に不法侵入したあげく、フック船長の手を斬り落とした
船から逃げた可愛さ余って憎さ百倍の妖精と、腹黒子供4人はネバーランドに帰ろうとするも、痴話喧嘩により永久追放をくらった
っていう話じゃないの?」
 長々とした説明を聞いたあと、門間とΩは揃って溜め息をついた。呆れと感心とが交ざった溜め息を。
「よくそこまで考えたね。しかも全員あくどい」
「Ω、この世に全くの善人なんていないんだよ」
 悟っているようだが、カトリーナが言うと説得力に欠ける。むしろ欠片すら無さそうである。
「それにしてもカトリーナの頭って凄いよね。1回でいいからぶちまけて……。見てみたいよ」
「門間。明らかに本音が出たよね?」
「まさか。俺がお前みたいに馬鹿なミスするとでも?」
 決して間違いを認めない門間。顔全体で「もう触れるんじゃねーよ」と語っている。
 屋上には予鈴が鳴ると同時に残りの弁当を掻き込む3人の姿があったとか。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ