書物の欄 参

□雨のち晴れ
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丁度1ヶ月前、バレンタインの日に私は彼にチョコを渡した。つまり、告白したんだ
『好きです。よければ付き合ってください。返事はホワイトデーにお願いします』と書いたメッセージカードを添えて



そして今日、私はまた彼を空き教室に呼び出した。もちろん、心臓は1日中ドキドキいってる。そろそろオーバーヒートを起こすんじゃないかと心配になるくらいに


「白峰さん。バレンタインの時はありがとう。チョコ、美味しかったよ」

「口に合って良かった」


嘘。彼は決して人を傷付けるようなことは言わない。優しくて悲しい嘘を平然と言うんだから
どうせなら「不味かった」って言って突き放してくれた方が楽なのに。優しくされたら諦めきれないよ


「それで、返事なんだけど」

「うん……」


あぁ、呼吸ができない。どうやるんだっけ?息の吸い方も吐き方も。涙の止め方も笑顔の作り方も
今は誰も教えてくれない。まだ、何かを言われたわけじゃないのに
言われる前から諦めてたら駄目だと思ってても、とめどなく零れ落ちる涙がにくい。醜い顔を晒すまいと俯いた


「俺で良かったらこれからよろしく」


そう言って笑った彼の顔を想像して、また涙が溢れた。一瞬顔を上げそうになったが、いまだ濡れる頬がそれを止めた


「こちらこそ、よろしく……お願いします」


喉がつっかえて上手く喋れなかった。それでも気持ちが通じたのか
彼は私に近付き、そっと親指で拭き取ってくれた
どうして彼はこうも私を泣かせるのが上手いのだろう。彼への想いに気付いて目で追っていたあの頃から、私は彼の一挙一動に泣かされっぱなしだ。何度も何度も枕を濡らしては、何もしない自分に嫌悪を抱いた
それでも今、それは思い出と化した


涙を越えて
貴方の笑顔を
ずっと見ていたい

足りないものばかりで
泣いた日々も
今は私の一部だから

だいじょうぶ
孤独(ひとり)じゃないから
見失わないで
シアワセノカタチを



Fin.
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