書物の欄 参

□年末大掃除
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年末――。それは家が大きければ大きいほど大掃除が大変になるという恐ろしい時期。紅家長姫・紅 秀麗も例にもれず家中を駈け回っていた。もちろん「年末年始は稼ぎ時なのにー!!」と叫んでいたのは秘密である
父・邵可は府庫の片付けで出払っていて、家には家人・静蘭と秀麗の2人だけだった

その頃、紅黎深邸では……


「絳攸。兄上の家に行って掃除の手伝いをしてきなさい」

「イヤです。なんで俺が」

「お前が私に嫌だと言って通った例(ためし)があったか?」

「……行ってきます」


なんだかんだで黎深には敵わない絳攸だった。仕方なしに掃除道具と思われる布(絹)を1巻き用意した
そしていざ門を出て邵可邸へ行こうとしたとき…


「どこへ行く、絳攸。邵兄上の家は反対方向だ」


黎深の声によって引き止められてしまった


「まったく。軒(くるま)に乗っていきなさい」

「わかってます…」


絶対に心配した素振りは見せない黎深様でした☆
軒に揺られつつ、そういえば、と思った絳攸。運転手に
「少し菜(しょくざい)を買いに寄ってくれ」と1言。そう、食材を持たずには例の家人が門をくぐらせてくれません
2,3店寄ってそれなりの食材を調達し、再び軒に乗り込もうとする絳攸の耳に、彼の名を呼ぶ声が聞こえた。振り返ってみると、女の大群…と、その先頭にいる人物。藍楸瑛がいた


「家の方はどうした、この万年常春男」

「親友に対して随分な言い草だね。まあ、いい。これから秀麗殿のところへ?」

「ああ。黎深様が大掃除を手伝って来いと仰ってな」

「そうか。なら私もご一緒しようかな。彼女の馳走を食べて今年を終わるのも悪くない」

「ならその後ろのモノをどうにかしろ!」

「相変わらずだねえ、君の女嫌いも。ここまでくると、ある意味見世物だね」

「ふっっっっっざけるなーーー!!」


寒空に絳攸の叫び声が空しく響いた……

結局楸瑛も軒に乗り邵可邸へ向うことになった。その間に何度も軒が傾いたのは言うまでもない
邵可邸前に着き、一応声をかける。たぶん聞こえないだろう、とも思いつつ。すると意外にも香鈴が出てきた


「どちら様ですの?今秀麗様はお忙しくていらっしゃいますので、私が用件をお聞きしますわ」

「藍楸瑛と申します。こっちが」

「李絳攸だ」

「秀麗殿の手伝いを、と思いましてね」

「まあ、そうですの。調度人手が欲しかったところですわ」

「そうですか。それはよかった」


見慣れない女が出てきても動じない楸瑛に今だけ心の中で尊敬した絳攸。しかし、この家に侍女を雇う余裕なんてあったか?と、真剣に悩んでいた。そんな友人の姿を横目に、楸瑛は香鈴に尋ねた


「ところで、どうして君がここにいるのかな?」

「私は秀麗様にお歳暮を届けにきましたの。そのついでにお手伝いをさせていただいてますわ」


あたかも合点がいったとでもいうような顔をした2人
この2人にとってこの家はなんなのだろうか

そのまま秀麗がいると思われる室(へや)まできた3人。案の定そこには秀麗、静蘭の2人がいた。香鈴が2人に声を掛けると、驚いたように振り返る秀麗と、別段驚いた風を見せない静蘭が振り返った。もちろん2人の手中にはボロ雑巾がおさまっている


「あ、絳攸様と藍将軍。すみません、お出迎えも出来なくて。しかもこんな格好で……」


一応でも女の子な秀麗は少しばかり顔を赤らめ詫びた。静蘭に至っては「なんでこの忙しい時に来るんですか?」と言いたそうなのが見て取れる。女性陣は気付いていないようだった


「黎深様が『大掃除をしているだろうから手伝ってこい』と仰ったからな。手伝いにきたんだが」

「私もだよ。絳攸が軒に戻るのすら危うかったから心配で着いてきたんだ。もちろん掃除の手伝いはやるけど」

「そんな、悪いですよ」

「そんなことありませんわ!」


秀麗が言い終わるか否かのときに、香鈴は大きな声で反対した


「この広さですから今日中に終わるかどうかも危ういのですよ。でしたら折角来てくださったんですし、手伝いさせましょう」

「そうですよ、お嬢様。わざわざ家の方を放っておいてまで手伝うと言ってくださってるんですから、酷使して差し上げないと失礼ですよ」


香鈴の言い分に静蘭も便乗してくる始末。しかも何気に非道いことをサラリと言っている


「う、う…ん。なら、少しお手伝いお願いしますね」


苦笑混じりの秀麗に誰も反論を唱えることが出来なかった
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