真選組
□嵐の予感 4
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「ぎん〜。ぎんちょきぃ」
甘やかな声が自分を呼ぶ。その声を聞いただけで、銀時は幸せを噛み締めた。
かわいい……
ソファーに座っている自分の目の前で抱っことせがむ恋人は、それはそれは愛らしい。すぐさま脇に手をやり、膝の上に上げてやる。
だが、ちび土方の機嫌はいまいちよろしくないようで、少し怒っているような、拗ねているような、それでいて悲しそうな顔をしていて、銀時は首を捻った。
「どうしたの?」
ちび土方はやはり大人の土方と同じで、なかなか自分の想いを口にしない。それでも幼いだけあって、すぐに表情に出るのがまた可愛い。特に今はその表情もさることながら、猫耳が感情を如実に表していた。
このときもなかなか言い出さないちび土方を、銀時は根気よく待つ。
そしてようやく出てきた言葉に、息が止まるかと思った。
「かぁちゃまは?」
「え?」
「かぁちゃまはいちゅににゃったら、お迎えに来るにゃ?」
咄嗟に返事をすることができなかった。そうだ。この年までの記憶が残っていると言っていた。
ということは、この土方の中にはまだ母は生きているのだ。
「もう、この家にいるのはいや?」
どう答えたらいいのかわからなくて、逆にそう訊いてみた。すると、ちび土方は少しだけ考えてふるふると頭を振る。
しかしまだ、その顔は晴れなかった。当然だろう。まだ三歳なのだから、親が恋しいに違いない。
三日も文句一つ言わず、大人しくここにいたのが奇跡だ。
「ごめんね。母ちゃんはまだ用事があるんだって。もうちょっと待ってて、って言ってたよ」
とりあえずは誤魔化しておかなければ仕方ないだろう。解毒剤さえ出来れば、問題はないのだ。
それまで誤魔化しがきくかは分からないが、先のことはその時考えればいいだろう。
そう告げれば、まだ寂しそうな顔をしながらも、ちび土方は頷いた。いじらしいその姿に、銀時はギュッと小さな体を抱き締める。
そういえば、ここに来てからはずっと閉じこもりっぱなしだ。
外には出すなと言われたが、近所の公園ぐらいはいいだろう。
「お外、行く?」
その言葉に途端にちび土方の瞳が、きらきらと光り輝く。やはり家の中ばかりで退屈だったのだろう。
「私も定春連れて、一緒に行くネ」
神楽もそう言って用意を始めた。
そうして三人と一匹は暖かい陽気に誘われるように、一路公園へと向かったのだ。
2007.4.21(初出) 2007.5.28(収納)
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