真選組

□嵐の予感 1
2ページ/2ページ




周りが騒がしくなったからだろうか?
子供、もとい土方の瞼がぴくぴく動く。そしてゆっくりとそれは引き上げられた。
いつもと同じ、綺麗な黒真珠の瞳が現れる。いつもより大きなそれは寝起きだからか、少し潤んでおり、思わず銀時の下半身にヒットした。
思わず前屈みになりかける銀時を、沖田は冷めた目付きで見下ろす。

「旦那ぁ。幼児相手にそれは情けねェですぜィ」
「仕方ねェだろ!ちっちゃくても、土方は土方なんだから……!!」

いや。小さいからこそ更にそれは凶器と化しているかもしれない。
銀時の大きな声に途端に土方の猫耳はぺたんと伏せ、その瞳は潤みだした。見えないが、恐らく尻尾も丸まっていることだろう。
えぐえぐと嗚咽を漏らしかけた土方に銀時は慌てて立ち上がり、あやし始めた。

「ご、ごめんね。大きい声出したから、吃驚したよね」

トントンと背を軽く叩き揺すってやると、大きな瞳は涙を止め、じっと銀時を見詰める。正確には、銀時の髪だ。それに気付いた銀時は苦笑を洩らす。
今までの様子を見ていると、真選組副長としての土方の記憶は残っていないようだ。恐らく土方自身の記憶が残っているとしても、この年齢までだろう。ならば、このちび土方は銀時とは初対面ということになるから、この髪が珍しいに違いない。
記憶がないとはいえ、土方に気味悪がられるのは流石に堪える、と銀時はぼんやり思った。
しかしちび土方はそんな銀時を他所に、にっこりと花が綻ぶような笑みをその顔に乗せ、手を伸ばしたのだ。

「ふわふわぁ」

舌っ足らずな声がそう言ったかと思うと、嬉しそうに指に髪を絡めた。
自分の髪で遊び始めた土方に、銀時は瞠目する。そういえば土方も初対面の時、こうやって髪を触れてきた。やはりこの子は記憶はなくても、銀時の土方なのだ。思わずギュッと抱き締める。

「いちゃいにゃ」

小さな抗議の声に、バッと銀時はその体を離す。それよりも……

「にゃって……。今、にゃって……!!」

思わず、萌えェェェェ!!!と叫ぶ銀時の後頭部を、沖田は容赦なく殴りつけた。

「で、預かってもらえるか?」

そんな遣り取りを見ながら、笑みを噛み締める近藤は改めてそう尋ねてきた。
それに銀時は首を捻る。

「そりゃぁ、勿論いいけど……。なんで?土方なら、ここに置いてても別に支障はねぇんじゃねェの?」

どころか、銀時が連れて行ったら他の隊士から、大ブーイングが起きそうだ。
それに近藤と沖田は一斉に顔を顰めた。近藤は渋い顔のまま説明を始める。

「来月、御上の生誕記念式典が京で行われる。それに伴い上様が行幸なさるから、明後日、江戸で警備の会議が行われるんだ」

将軍が京まで出向くとなると、それは大仰な警備体制が敷かれることだろう。特に京はあの男、もっとも残忍で危険なテロリストの本拠地だ。
ふとそんなことを考えて、その中の単語に引っ掛かりを覚えた。
京……。京といえば、例の旧知であるテロリストと並び、銀時の最大の天敵がいる。

「まさか……」
「そのまさか、でさァ」

沖田の溜息混じりのその声に、銀時の背筋に冷たいモノが流れ落ちた。

「芹沢さんが来るんだよォォォ!!!」

近藤が今まで堪えていたかのようにそう叫んだかと思うと、ヨヨヨと泣き伏す。
それを呆然と見ながら銀時は、ちび土方を抱いたまま、ぶるりと体を震わせた。



それはきっと、嵐の予感。





2007.3.17(初出) 2007.3.23(収納)





.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ