中編小説

鈴音に灯る偽りの名
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りん りん りん


鈴の音が竹林の道にて鳴く。合わさって、青々とした葉がさわさわ唄った。
聴いているだけで涼んでくる。
日照りに乾く道さえも気にならない。


青年は素足で土の温度を感じた。
靴が無いわけではないのだが、どうも履く気になれなかった。見送ってくれた男が不満げだったのを思い出す。



「冷菓でも土産にあげるとしようか」



来る途中、氷菓の看板が立っていたはずだ。そこで苺味を買おう。そう頭に書き止めた。
それを見越したように、袂が動く。

青年は右腕を首元まであげ、中を覗いた。
袂の中には、手のひら大の白狐が。
上品な毛並みが崩れるのもかまわず、主張を繰り返す。そのたびに青年の手首にある鈴が鳴いた。



「綿雪、落ち着け」

「きゅい!」

「そうかい。てこでも暴れるんなら、こっちだって容赦はしないさ」



青年は毛玉のように転がる獣を掴み、外気にさらす。
苺のように赤い瞳が驚きで見開かれた。青年は満足げに微笑み、綿雪を肩にのせる。



「冗談だ。お前にもその目と同じ色を用意してやる」

「きゅる!」

「あぁ、半分こをしよう。そうと決まれば、早くに用事を済ませてしまおうな」




突き抜ける青空の下。
青年はまた、ゆらり歩き出す。






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