短編小説
□ひとつ
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「……いりません、愛情なんて」
そんなものより、憎悪を下さい。太裳は無機質な声音で言う。
昌浩はたじろいだ。
「太、裳……?」
「変ですか、私?」
こてんと傾げられる首。仕草も言葉も無邪気だ。なのに。
昌浩の背筋を凍らせる恐怖があった。
「……おれの、せい……?」
「いいえ。昌浩様は、何もしていません」
「だから太裳は不服なんだろ……?」
「……はい。貴方は、私を嫌って下さらない」
「だって……」
太裳のことが好きなのだ。
昌浩は嫌えるはずがないと断言する。
「どうして、憎んでほしいの?」
「……ふふっ、貴方が想像する通りです。だから、私に言わせないで?」
私ばかり貴方を愛しているみたいで、悔しいですから―――…。
END
親愛、友愛。
あなたは、愛ばかり振りまく。
ならば、移り変わりやすい恋愛はいらない。
そう。
たった一つの憎悪を下さい。
H22・3・31