短編小説
□嘘と願えたら
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どんなに未来を変えようとしても、そう簡単にいくものではなかった。
だから、ここで死ぬことは変えようが無いことなのだ。
そう彼に言ったら、泣きそうな顔をされてしまったことを覚えている。
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嘘と願えたら
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「未来が見えるのも、考えものだよね…。人生つまんなくて困るよ」
少しやけ気味に独り言を言ってみた。
それに返してくれたのは、俺を優しく包み込む風だけで。なんだか寂しさが増す。
気休めに、あたりに咲きほこる花を一輪つんだ。
耳を澄ませば、人々の笑い声、鳥の鳴く声、川の流れる音が重なりあっていることがわかる。
俺が今からこの世をさるなんて、嘘みたいじゃないか。
そう思ったら、少し気持ちが楽になった。
「よしっ、俺もできるだけの抵抗はしてみるかな」
ポケットに入れてきた、たった一つの私物である携帯電話。
電話帳を開き、通話ボタンを押す。
繋がらなかったらどうしよう。
そんな不安もよぎるが、それは杞憂に終わった。
『……昌浩…』
「今日は持ってたんだ、携帯。青龍はいつもテーブルにおいておくから、携帯の意味がないのにね」
『…そんなことはどうでもいい。お前、今どこにいるんだ』
普段よりも数倍増しに苛立った声音に、思わず苦笑してしまう。
どうやら、俺を心配してくれているみたいだ。そりゃあ、病人が病室から消えればそうだろうが。
「青龍、ここは病院と違って、とっても綺麗な場所だよ」
『っ、わざわざそこに行く必要があったのか!?』
「何処に居ようと未来は変わらないもん。どうせなら、自然に囲まれて死にたい。病院じゃ嫌だ」
だからこそ、俺の見た未来の映像もここだったのだろう。
「聞いてよ、青龍。俺さ、これでも抵抗しているんだよ。未来を変えようと」
『……絶対に未来は変わらない。そういい続けてきたお前がか?』
電話越しだから彼の表情が読めない。
呆れているのだろうか。それとも、笑ってくれている?できることなら、後者であって欲しい。
「……もう少しで時間だし、電話切るね。俺の抵抗はこれでお終い」
『待て、きるな!まさ――』
青龍の呼びかけに、名残惜しさを感じた。
たったそれだけのことなのに……。
「なんで、泣いちゃうかな…」
本当は言いたかったんだ。
死にたくない。それが叶わないなら、青龍が傍に居て俺を看取ってよ。そう言えたら、どんなによかっただろうか。
「でも、俺は少しだけ…未来を変えれた気がするんだ……」
青龍に電話する俺の未来は見たことがなかった。偶々その映像がなかっただけかもしれない。
それでも、最悪の最後まで一人ぼっちの未来はまぬがれた。
彼という存在が俺にはできたから。最後に、大切な人の声が聞けたから。
「……っ、あーあ、息、がくるしぃ……」
ごろりと地面に寝転がる。
霞む視界に映ったのは、彼の瞳に似た蒼い空。
「…ありが、と、…せいりゅう…」
どんな時も俺の傍で支えてくれた人。
文句を言いながらも、俺のお願いを聞いてくれた人。
ときおり、優しく微笑んでくれた人。
「…だいすき、でした…あなたが…」
END
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