REBORN!

空を見て
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鳥かごが音を立てて倒れた。
あぁ。
逃げてしまう。


行かないでと手を伸ばした。
でも、止めた。



「じゃあね」



君だけは。
広い広い、空を知って。









鳥かごが元の位置に戻される。
ゆらりゆらり揺れ居ていたそれは、徐々に静止し始めた。


「アイツ……よかったか」


俺は目の前の背中を見た。
表情が見えない。見えたとこで、意味はないのだけど。


「……どうなんだ」

「よかった」

「……そうか」


リボーンは緩慢に立ち上がった。少し意外だ。
だって、普段は優雅で、洗練された動きを見せる奴だから。

鈍間(ノロマ)って言われる俺の方が、きびきびしているかな。
ほら、お前の歩幅にだって追いついている。


「ツナ」


リボーンが玄関先で俺を振り返る。
俺は異様に身長が高いこの男を見上げた。


「部屋で待ってろ」

「どうして」

「どうしてもだ」


俺の頭を撫でる大きな手。
昔は俺よりも小さかったくせに。男の俺としては複雑な心境に陥る。

そんなことを考えていたら、リボーンは既に靴を履いてしまっていた。


「いってきます」


漆黒の瞳を隠すように目が細められて、優しく口角が上がる。
本人には言ってやらないが、俺の大好きな笑顔だ。

こんな表情をされると、行かないでなんて言えなくなる。
でも。


「やだ」


黒いスーツの袖を掴んだ。
ぎゅっと力を込めて、振り払われないようにした。


「リボーンが外に行くなら、俺も行く」

「いつかは帰って来るんだ。それまで待ってろ」

「……何処に行くんだよ」

「探して来るんだぞ」


何を。
なんて聞かなくても分かる。

お前はお前を探しに行くんだろう。正確には、昔の体を。


「なんで!」

「は?」


リボーンは胡乱気に俺を見た。


「リボーンは昔の体は捨るって言った。なのに、なんで」

「お前が………」


アイツの方がいいって言ったんだろう?
戸惑いを隠せていない声音に、俺は首を傾げる。


「俺は鳥のリボーンも好きだったよって言った」


好きだった。
今も鳥は好き。でも、過去形。

もう、ここには居ないから。


そう俺が言えば、ようやくリボーンは納得した。


「いいのか、戻さなくて」

「いい」

「本当に」

「しつこい!!」


そんなに聞いたって、俺の気持ちは揺るがない。
だって。


「あの子は空を見れるんだ」


リボーンが捨ててしまった、特権。
お前は風に乗って、気ままに飛ぶことはもう、できない。

俺を止まり木になんてしてしまったばっかりに。


「本当は、リボーンにも見て欲しい。広い空を」

「また、それか」

「またってなんだよ」

「お前は口を開けば、そればっかじゃねーか」


面倒な奴だ。
そう言いながら、リボーンの表情は柔らかかった。


「俺は人間になれてよかったんだよ」

「本当に?」

「しつこい」


びしっと長い指で額を弾かれた。
赤みを帯びたであろうそこを隠し、指の間からリボーンの表情を窺う。

あぁ。このやろう。



なんて、いい顔してるんだ!










END

H22.4.30


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