その他諸々

□帰り道の道草
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 ガラッと病室のドアを開くと、ジタンは顔を上げてニッと笑った。


「よっ、沖田」


「おぅ。大人しくしてたかぃ?ダメだぜぃ?脱走して山帰っちゃ」


「いい加減にしろよテメェ……!!」


 先日と同じようにちょっとしたやりとり。それから近くに座り、冗談を交えながら質疑応答。特に問題は無い。きっと今後もこんな感じだと思う。少し違ったのは、────


「ジッタ〜〜ン!!!心配したんだぞぉ〜〜!!クラウドと一緒にいきなり消えるから〜!!マジ止めろしそういうの!!!思わずスコールと一緒に探しに来ちゃったジャン☆」


 …あ。コイツ旅したかっただけだろ。好奇心に負けただけだろ。


「うるさいバッツ。ここ病院だぞ」


 そしてスコールは巻き込まれて引きずられて来ただけだろ。可哀想に。今バッツの頭いつもより強めに叩いたよね。


 ───彼らがなだれ込んで来た事だった。土方が、ジタンの知り合いと知って、しかもバッツが見舞い見舞いとうるさかったらしく、仕方なく連れてきてしまったようだ。連れてきた土方は、先日と同じように駐車場のパトカーで待機している。恐らく暇そうに煙草でも吹かしているのだろう。仕事しろよ。
 まさか、2人も来ているとは思わなかったが、とりあえず他愛のない話をし、バッツを軽くイジメてクラウドの捜索を頼み別れた。バッツに対してスコールの当たりが強いのは気のせいだろう。


「じゃあ、俺たちはこれで失礼するぜ。ジタン、さっさと怪我治せよな!」


「おう。お前は頭治せな」


「ひでぇ!」


「さっさと戻るぞ。副長さんが待ってる」


 スコールはバッツの首根っこを掴んで退室した。「またな〜」とヒラヒラ手を振るジタンに、覚えていた疑問が確信に変わった。


「なあジタン、おめぇさん、なんであんな怪我負ったんだぃ?」


「……へ……?」


 突拍子のない質問に、キョトンとしている。


「なんでも何も、わけわかんない奴らにしつこく追われてて、言うこと聞かないなら多少傷つけてもいいだのほざいたから反撃しながら逃げてて、あの狭い路地裏に追い込まれて、避けきれなくて―――」


「嘘だろぃ?それ」


 いつもと変わらない表情と声色で、今までに言われたことのない事を言われた。


「初めから気にはなっていたんですがねぇ、オメェ、戦い慣れてるだろぃ。しかもかなり身体能力は優れてるときたもんだ」


「何、言ってんだよ」


「あの狭い路地裏には、浪士と思しい死体が数人分あった。しかし、それらの死体は切り刻まれていて何者かの判断がつかないほど。オメェ以外の誰かがやったとは思えない、かといって腹を刺されたオメェが全員殺れるとも考えられない」


「でも、俺は……」


「じゃあ、腹を刺される前にオメェが殺ったとしたら?運が良けりゃ、正当防衛に見せかける事ができる。ま、俺には見抜けたわけだがねぃ。どおりで嫌な血の匂いがしたわけでぃ」


 スコールとバッツはまだ入隊したばかりだが、実戦の時には他の新入隊士よりずば抜けた成績を叩き出している。ジタンの身に付けていた武器はダガーやナイフが主だった。そんな奴らが連んでいるとなると、元々同じ様な危険な環境下で過ごしてきたことが推測できる。そんな、実戦経験豊富なヤツが、そこいらの下手な浪士達相手に容易くやられはしないだろう。


「……だからぁ?オレが悪いってゆうのぉ?」


 無表情に等しい笑みを浮かべ、嫌に間延びした言い方をしだしたジタン。口の端が少しつり上がるが目には何の感情はなかった。


「……ジタン、」


「だって、アイツ等、先にやってきたのはさぁ、あっちだろぉ?気持ち悪い、オレに触るな、俺はなにもしてないのに。だって、誰も助けてくれないじゃん?自己防衛だよぉ、みんな見て見ぬフリしてさぁ、わかるよ自分が大事だもんなぁ?オレだって一緒じゃんかぁ」


「…ジ…っ!」


 『ジタン』と名を呼ぼうとしたとき、それは一瞬だった。ジタンはナイフを手にし沖田の襟首を掴みベッドに引き倒し、頸動脈の部位に的確に刃をあてたのだ。馬乗りで、肩は膝で押さえられている。


「これ以上、俺の中に踏み込むな……!!」


 低い声で、目を鋭く光らせている。
 端から見れば、それはまるで獲物を狙う獣のようにも見えただろう。しかし違った。彼は、自分を護ろうとしているだけ。自分の心を、自分自身を、護ろうとしているだけなのだ。その証拠に、ナイフの刃でなく手を首に当てて支えている。きっと支えてないと震えてしまうからだろう。発せられている殺気は不安と入り混じり、決定的なものにはなっていない。
 きっと、あの時も。路地裏で追われていた時も、本当は怖くて仕方なかったのだろう。殺傷衝動は恐らくは混乱から起きてしまったもの。
 沖田はジタンの腿を下へ押し、膝を肩からどかし腹ばいにさせ、そのまま抱き締めた。ナイフは沖田の首のすぐ横に突き刺さった。


「ぁっ……?」


「ジタン。お前にはさ、ちゃんと仲間が付いてるだろぃ?お前は独りじゃないんでぇ。お前自身だって、こんなに強いんだからさ、何も、怖がることはないんでさぁ」


「…お、れは…」


 沖田はジタンの背をさすりながら落ち着かせようと話しかける。もう殺気は無くなっていたが、まだ不安は残っているようで。


「……、…ホント、はさ…、気がっ、ついた時から、不安で…っ…、一緒に、居たはずのクラっウドも、…っどっか行っっ、ちゃって…っ」


 嗚咽と共に吐き出される本音は、彼の年相応の幼い不安と恐怖だった。沖田は黙って頷いて、ただ背をさすって聞いていた。


「っ、……っ、怖くて、そしたら、アイツ等に…っ追われてっ……!……、俺、独りでっ、周りは暗、くて、…っ…気づいたら、みんな殺しててっ……、でも、独りは嫌で、…夢っなら、覚めないと、って……、自分を、刺したんだっ…」


 後は、ただただ泣き叫んで、それを落ち着くまで待った。
 彼は、護ろうとしただけ。殺したのも、自分を刺したのも、嘘を吐いたのも。全部、自分を護ろうとしただけ。弱い自分を護ろうとしただけ。壊れていく自分を護ろうとしただけ。壊れていくのも『自分』を護りたかったから。それは、少し沖田にも当てはまることだった。誰かと一緒に居ても不安な時があって、不安が恐怖に変わって。










 ジタンは、泣き寝入りしてしまった。普段は泣くことはないのだろう。
 帰る時には、すでに夕方になっていた。まだジタンは寝ている。しゃがんでジタンの頭を撫でようとして、グッと頭を押された。目の前には、間近になったジタンの寝顔。


「!!??」


 触れていた唇が離れて、ジタンは薄く目を開けてニッと笑った。
 押されたと思ったのは、ジタンの手で引き寄せられていたのだ。


「……また、な…総悟…」


 そう言い、また寝てしまった。何故キスをされたのかは不明だが、とりあえず、帰った。



















 
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