その他諸々
□帰り道の道草
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だいぶ回復してきたジタンから聞いた話しはイマイチよくわからなかった。ただ、たまたま江戸にたどり着いた異人だということのみが判明していることだった。
「つまりってぇと、そのクリスタルとやらの力で自分の世界に帰ろうとしたが、エネルギーが少なかったために、事故でここに飛んじまったと。で、全く異なる世界の言葉を理解できるのもクリスタルの力があるから、って事かぃ?」
「まぁ、そんなところだな」
「なる程ねぇ……。とりあえず、おめぇは真選組が保護。その中でも俺がおめぇ担当みたいになってるみてぇだから、安心しな。んでヨロ」
軽いノリで手を差し出され、その手をとりあえずにぎり返し、『よろしく』の意思表示をする。
「あぁ。……一つ、いいか?」
「いくつでも」
「ちょっと、人探しててさ。金髪のツンツン頭で碧眼の奴、知らないか?俺と一緒に飛ばされたみたいで。もし居なかったら、別の世界かも知れないけど……」
「いや、残念ながら」
沖田は肩をすくめた。
「そっか……」
「もしよければ、捜索願出すぜぃ?」
しかし、ジタンは首を振った。フッとため息を吐いて、立ち上がった。
「じゃあ、今日はもう帰るぜぃ。今度また来た時は、怪我について聞きやすんで」
「あぁ。またな、沖田」
「また」
二人はニッと笑って手を振った。
「どうやらあいつ、不法入国者ってわけじゃなけりゃ、不法入星者ってわけでもねぇし、かと言って国民でもねぇみてぇでさぁ」
「マジで『異界の住人』ってか?馬鹿馬鹿しい」
屯所に戻り、土方に報告に戻った沖田は、自分にもよくわからないと首をすくめた。
「でもねぇ、真選組を知らなければ車やパトカーすら知らなかったんですぜぃ?宇宙船のこと『ヒクウテイ』なんて言い出すしよぅ。全然、馬鹿馬鹿しくなんかありやせんぜ?」
「……保護する事しかできねぇってか」
煙草の煙と一緒に吐き出すようにつぶやいた。法律違反者ではない、しかし国民扱いも出来ない。ただ単に『保護』するしかないのだ。御上への報告も一切しない、真選組の、しかも幹部内での極秘事項にしなくてはならないのだ。何故なら、上に知られれば彼がどんな目に遭うかは想像に難くないからだ。その上、彼は彼の世界に帰れなくなる可能性が大だろう。それは一生かもしれない。とにかく、事を慎重に運ぶ為に、目の前のクソ生意気な一番隊隊長は局長と副長だけにはと、一通り報告はしている。もしかしたら、その内監視役でザキにも話が行くかもしれないが、まあ今度でいいや。
今日の分の報告を終えた沖田は「どっこいせ〜」と立ち上がり、去り際に土方を振り返った。
「そういやあいつ、人探してるって言ってやしたねぃ。ツンツン頭の金髪碧眼ですって。あいつと一緒に飛ばされて来てるかもしれないんで、捜索願は出しませんけど、一応あたっといてくだせぇ。それと……どうか、慎重に事を運んでくだせぇよ……マヨニコチンココノヤロー」
「誰がマヨニコチンココノヤローだ!!!」
土方は座布団を投げつけ叫んだ。しかし、座布団は虚しく空を切った。
「……しゃあねぇな。一応、明日の巡回からその辺あたってみるか」
できればあの店にだけは寄りたくないと思いながら、土方は夕飯を食べに食堂へ向かった。
まだ仕事に出ている者やこれから仕事に出る者で、空席がちらほら見受けられる。土方はその内の調理場の近い隅の方の席に着いた。
「すみませーん、土方スペsy「オバチャ〜ン!カツカレー2つと、お茶2つね!!」
「……声デカいぞ」
土方がいつもの土方スペシャルを注文しようとした時、聞き慣れない2人の声が割り込んだ。1人はかなりデカい声で。待ちきれない様子で、カウンターに身を乗り出し、ぴょこぴょこ両足で小さく跳ねている。もう1人は呆れたようにため息を吐き、額に手をあてている。2人共茶髪だが、海の様なサファイアと、シルバーグレーの瞳という、明らかに日本人には無い色をしていた。確か、真選組隊士の中に外人はいなかったはず。仕事が忙しくて、そういった話を耳にしなかっただけかもしれないが。そんな2人を観察していると、蒼眼の奴が灰眼の奴の肩を叩いた。
「少し落ち着け。副長さんが見てる」
「ん?お?おぉ!!初めまして!!」
「!?」
バンッと両手をテーブルに着き、爛々と寄ってきた灰眼の男。それにまた呆れながらこちらに来た蒼眼の男。いきなりハイテンションで来たのにも驚いたが、それ以前に土方の視線に気づいた蒼眼の男にも驚いた。恐らく、ただ者ではないだろう。とか思っていると、灰眼の男に両手を掴まれた。
「俺、最近新しく入隊してきたバッツっていいます!いや〜任務がいつも行き違いでなかなか挨拶出来なくてさ、遅くなりました!これからどうぞよろしくお願いします!」
「お、おぅ。」
勢いあり過ぎ。しかも敬語が成っていない。一体どこの育ちなんだか。自分も人のことは言えないが、少なくともこのバッツという男よりは丁寧なはずだ。
「初めまして。先日入隊いたしました、スコール・レオンハートと申します。副長殿とお会い出来嬉しく思います。これからの御指導、よろしくお願いします」
外国式の敬礼だろうか。左胸にスッと右手をあて、ピシッとしている。元々軍隊にでもいたかのようだ。落ち着きがあり敬語もなかなかしっかりしている。このスコールという男は、バッツよりは出来そうな雰囲気がある。
「あぁ。俺は副長の土方十四郎だ。仕事ではあまり一緒になることは無いだろうが、この真選組にいる限りはビシバシ指導していくからな。特にバッツ。お前は覚悟しておけ」
「はっ。よろしくお願いします」
「……俺?」
「挨拶はこの辺にして、座れ。今日は歓迎も兼ねて、同席してやる」
土方は自分の方に灰皿を寄せて、煙草に火を着けようとして、スコールに右手で制止のポーズをとられた。警軍両用の。やはり経験者だろうか。
「……すみません。煙草、ダメなんで、俺」
「俺も苦手だな〜」
割り込んで来たバッツにスコールが制裁を下す。会った初日にハッキリ言った隊士は初めてだ。なかなか好印象だ。スコールは。
「そうか。喘息持ちか?」
「いえ。そうじゃないけど、俺はこの国では一応、未成年なんで、ご遠慮願いたいのですが」
「おぉ、そっか。スコール17だもんな〜。確かこの国じゃ、二十歳?から成人だったよな」
……見えない。が、失礼なので言わない。
そんな話をしていると、土方の前にマヨネーズてんこ盛りの丼が出された。
「……え。何、それ」
「……」
「土方スペシャル。食うか?」
「「……」」
唖然としている2人の前に、カツカレーとお茶が置かれた。