銀魂小説
□回帰転生
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「(…あ〜…蒸し暑ぃ〜…)」
低く大きな入道雲が、遠くも近く感じる、彼方に浮かんでいた。
銀時は、学校の屋上で寝転んでいた。こんなに太陽が照りつけるような場所でサボる必要は無いと思うが、とりあえず外に出たい気分だったのだろう。
この梅雨という季節はいつの時代でもジメジメとしているらしい。
「(あの時代(トキ)も……―――、………あれ、アノトキ?あの時代って、なんだ…?)」
ふと脳裏をよぎったのは、澄んだ空に浮かぶ高い入道雲に、油蝉の声の響きわたる田舎道、現代(イマ)の街並みには見られない木造の大きな屋敷、机を並べてある畳の部屋、紐で綴じられた本、それを読む少年や本は机に置いたまま誰かを見詰めたままの少年、後ろで居眠りをしている―――――………。
「(…アレッ?)」
がばっと起き上がっても空は見上げたままで、記憶を探る。今の光景には、大変懐かしい想いがあった。
「(…ヅラに、高杉に、…俺…?)」
そして、最後に出てきたあの人は―――。
「(―――…あれ、…名前が出てこない…顔もいまいちパッと来ない……大切な人、だった……?)」
銀時が首を傾げて唸っていると、後ろの屋上のドアが開く軋む音がした。
「…ぁ」
「高杉…」
2人は日の当たらない場所に移動して、銀時はさっき日に当たり過ぎたのかまた寝そべっていた。高杉はタバコを吹かしていたが、どことなく心ここに在らずな銀時が視界に入った。
「…どしたぁ銀時ぃ。暑さにやられたかぁ?」
「……………。………ぁ?」
案の定今の反応も相当遅かった。余程考え込んでいたのだろう、かなりボケーッとしている。
「……何か、考え事かぁ」
「…ん〜……ん?」
今度は生返事。しかも聞き返して来た。まさか熱射病でもおこしたのだろうか。本当に今日は異常と言っていい程ボーっとしている。
「銀時ぃ、お前帰った方がいいんじゃねぇかぁ?」
「…ぁ?…帰る、って、どこに………あ。家か…」
普段ならツッコミを入れるところだが、今はそんな場合ではなさそうなので、とりあえず銀時の意識をハッキリさせる必要がある。帰らせるにしても、今の状態のままだと帰り道すら心配だ。高杉は銀時の顔の前に自分の顔を持ってきた。
「おいっ銀時」
「、はぇ?…っ…!?」
銀時を跨いで覆い被さり、とっさに舌を出して深いキスをした。流石に驚いたようで、戸惑いながら高杉の優しく深いキスを受けた。
「ふっ…ん、…っは、ぅ…」
「…ん…(…熱はねぇみてぇだな…)」
軽くリップ音を立てて唇を離した。触れていた体が離れていく感覚に銀時は恐怖し、高杉の首に腕を回して抱きついた。
「ぁっ…し、晋助っ…!!」
「ぉわっ」
横になったままの体勢で抱き合う形になって動けないでいる高杉に、銀時の震えが伝わってきた。その様子に、高杉は眉を寄せた。『晋助』と自分の名前を呼んだのも気になった。
「おい…銀時」
「…っ…ぃっ、行か…ないで……っ!!」
離そうとしても、ある種の混乱状態に陥っている銀時はどうしてもしがみついてくる。離そうとすると、抱き締める力が少し強まる。まるで子供になってしまったようで、いや、別の誰かのよう、の方が当てはまるのかもしれない。
「独りで行くな、お前独りで抱え込むな、お前独りが苦しいんじゃないから、」
「―――っおい!!」
「っ!?」
なおもわけのわからない事を口走ろうとする銀時に強く呼びかける。ビクッと体を震わせ、キョトンと呆けたように高杉を見詰めた。
「…え、なに、…お前何やってんのお前?」
いきなり正気に戻り、いかがわしそうな視線を送ってくる銀時に、それはもう深い深い溜め息をついた。晋助はとりあえず銀時の頭を叩いておいた。
「…大丈夫か?」
「ん?…おうよ」
2人は日陰に座り直して、さっきより寄って座っていた。何だか急に銀時が本当は脆い存在に思えてしょうがなくなった。
「何、考えてた?…というか、何処往ってた、の方か…?」
「……ん〜…」
生返事だが、困ったように頭を掻いているので、今度はちゃんと意識はあるようだ。
「…なんか、よくわかんないけど、…うーん…」
「……」
もごもごと言葉を連ねるが、本人にとっても不思議なことが起こっているようで、顎に手をあてて唸っている。と、ふと思ったように、高杉に問いかけてきた。
「あ。お前さ、あれ〜なんだ………ヅラと、一緒に?寺子屋?…行ってなかった?」
「……寺子屋…」
普段なら腹を抱えて大爆笑するところなのだろうが、何かが引っかかったようで目を細めて記憶を探る。
まるで、自分がその世界、いや、時代に飛んだ気分になる。今の自分の意識は学校に居る晋助には無いに等しく、空間的なところに漂っているようだ。
見えるのは、懐かしい過の光景。恐らく寺子屋と思しき屋敷に、3人の少年、戦場を駈ける4人の侍、世界に対して強い憎悪を抱き破壊を楽しむ、自分。そして、輝いていた、輝いて見えた、あの人―――――…。
「―――……松…陽、先生…」
自分の泣きそうな声にハッと我に帰ったが、銀時は必死なんだかよくわからないが高杉の目の前で呼びかけていた。……顔をつねって引っ張ったり頬を挟んでタコ口にしたりして。
「え!?何、誰!?今なんて言ったの晋ちゃん!!怖い事ばっか言ってないで!オーイ!カームバ・ック晋!!」
「…なぁにしてんだテメェはっ!!」
「ぐぼぁっ!!」
そりゃあもう、思いっきり腹を蹴り上げてやった。