**準備室**
□Scheherazade-シェエラザード-
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「音楽、流していいですか?」
夜、風呂上がりに僅かばかりのアルコールと一緒に、こうして二人で星を見る。
部屋の窓の外は目立った建物がない。
こぢんまりした天体観測にはもってこいなのだ。
ただし、此処は罷り也にも都会。
流石に満天の…とは程遠く光彩の高い星々が微かに見えるだけ。
「今日は何かけるんだ?」
「聴いてからのお楽しみです」
部屋のスピーカーからは未だ音は流れず。
手元のリモコンを一押しすれば、たちまちに部屋は音の海に成るだろう。
「じゃあ、かけますね」
短い電子音。
ややあって、今宵の曲が部屋に充ち始める。
管と弦、打楽器の力強い導入部から一転、物悲しいようなヴァイオリン・ソロ。
憂いを帯びた、響き。
「リムスキー・コルサコフの交響組曲です」
音の洪水の中にあって、唯一透き通って耳に広がる声音。
「…こいつは、確か」
弦が忙しく動き。
管が追い掛け。
「シェエラザード、だろ」
にこりと微笑む目元を、雲から出た月が照らした…。