**屋上**
□雪の中
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『雪の中』
夜桜見物の帰り道。
終電を逃した王崎と金澤は静まりかえった線路沿いの道をのんびりと歩いていた。
「随分暖かくなりましたね」
「まあな…てか、俺らの場合は酒が入ってるからだろ」
「ああ、そうでした」
機嫌良く言葉を交わす。
「でも呑んで歩いても夜風が冷たくないですね」
「ああ確かに今日は暖かいな」
王崎達は真っ直ぐ帰宅するつもりもなく、ふらふらとコンビニに立ち寄って立ち読みした
り飲み物を買ったり。
それから桜並木が続く川縁の遊歩道に出るべく少し遠回りをする。
「うわあ…綺麗だなあ…まるで雪が降ってるみたいだ」
遊歩道に着いた王崎が感嘆の声をあげた。
桜はもう十分見たはずなのに、目の前の光景に圧倒される。
霞んだ月に照らされて舞うのが花びら雪ならば、散った足元の花びらはさしずめ降り積もった淡雪といったところだった。