「(まいった…)」
只今私は絶賛迷い中です。
黒板に羅列される意味のわからない言葉たちとこの真っ白なノートでこの一時間を乗り切れるか否か。
私の席は教室の窓側一番後ろという絶好の居眠りプレイス。
TPO、time、place…oは多分和訳すれば状況だったはず。このさいなんでもいい。そのTPなんちゃらにのっとれば私は是非ともこの時間惰眠を貪るべきなはず。
けれどそれをしないのはあの教壇にたっている年老いた教師が咳を吐きながらなんとか授業を進めているからだ。
あんな様子で必死に授業をやられては眠るわけにはいかない。というか寝られない。あんなのを尻目に寝たら鬼だ。ていうか休めそんな状態なら。
つまり私は教科書を忘れたのだ。
「(古典の授業で教科書が無いんじゃ話にならないよなあ)」
窓側一番後ろの私には教科書を借りるつてが隣りしかいない。その隣りが問題だった。
クラスの、いや、学園の王子様である不二周助くん。彼が私の右隣に座っている。
「(教科書、見せて)」
言えない。断じて言えない。学園の王子様とはいままで二、三口を交わした間柄であり、いきなり、忘れちゃったから見せて、なんてこと可愛くなんて言えない。(あくまで可愛く、がポイント)
いや優しい不二くんのことだからきっと快く見せてくれる。でもいきなり情けない印象は与えたくない。せめて周りからの印象通りしっかりしたクラスメイトでいたいのだ。
「(にしても髪の毛綺麗だなあ。睫毛も長いし。鼻の高さ少し分けてくれないかな。女の私より数万倍綺麗だ。あ、なんかヘコむ)」
「あのさ、」
「、え?」
急に王子様がこちらを向いた。なぜ。
授業中ということを考慮してるのか、不二くんは声を潜めている。
「僕の顔に、なにか付いてるかな?」
…あ
見つめすぎたか。
「えっと、教科書見せてくれない?」
いいよ、と微笑んだ彼はやはりこの学園の王子様だった。
(とりとめもない日常の話)
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