日和

□暗く深い
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暗い暗い夜の闇の中。

私は只ひたすらに歩続けて居た。

足の体重を掛ける毎に軋む廊下。
私が通った跡を、キシ、キシ…、、と追い掛ける。


暗い暗い夜の闇の中。

私は只ひたすらに其れが怖くて、
追い付かれない様にと、歩き続けて居た。


こわい 怖い コワイ 恐い

夜の闇の沈黙の中響く足音が、

恐い コワイ 怖い こわい

深い夜の闇の中でたった独りの己が、


だれか 誰か ダレカ!

私と共に、この闇の中を歩いて。
果てしなく続くこの足音に、追い付かれない様に。


角を曲がった。
月明かりが覘いた。

闇カラ、抜ケ出シタ?

ふと覘いた月明かりに、私は足を止めた。


其処で背に加わる微かな熱と体重。





『捕まえた』





心臓が停止する程の恐怖に駆られた。


追い付かれた。


そう思った瞬間、声が聞こえた。

耳に 体に 心に

馴染んで行く、優しい声。


「こんな夜中に、こんな処で何してるんですか太子。」


闇から、抜け出せた。


「い、もこ…いも、こ…妹子、妹子!」
「うわっ、なんですかいきなり!」


深い深い夜の闇の中。

僕は只ひたすらに歩き続けて居た。


深い深い夜の闇の中。

僕は只ひたすらに、微かな光に向かって歩き続けて居た。


追い掛けても追い掛けても、光は遠ざかった。

追い掛けても追い掛けても、

光は捕まるのが怖くて、
追い付かれない様にと、歩き続けて居た。


角を曲がった。
月明かりが覘いた。

光は、逃げるのを止めた。

ふと覘いた月明かりに、微かな光が混ざり合った。


其処で光の正体を知る。





『捕まえた』





心臓が高鳴る程の安心感に駆られた。


追い付けた。


そう思った瞬間、声を掛けていた。


そして光は、僕の名前を繰り返した。


耳に 体に 心に

馴染んで行く、透明な声。


「妹子…!いもこぉ!」


やっと、触れられた。


僕と共に、この闇の中を歩いて。
果てしなく深いこの闇の中に、飲み込めれてしまわぬ様に。



「太子、もう大丈夫です」
「いも…」
「僕が一緒に、歩いてあげますから」
「…う、ん」
「ほら、もう泣かない」
「うん…」
「もう少し、此処に居ましょうか」
「うん」
「嗚呼、満月が綺麗ですね」
「うん、」
「明日は晴れですね」
「そうだな…」



なぁ…妹子?

なんですか?

…どうしてお前には足音が無いの?

其れは、あなたと一緒に居るからです。

え?

二人の足音が重なって一つになるんですよ。






暗く深い夜の闇の中。

僕らは只ひたすらに歩続けて居た。

足の体重を掛ける毎に軋む廊下。
僕らが通った跡を、キシ、キシ…、、と追い掛ける。


暗く深い夜の闇の中。

あなたは只ひたすらに其れが怖くて、追い付かれない様にと、歩き続けて居た。


でも、もう大丈夫。

あなたは今この暗く深い闇の中で、独りぽっちじゃないんですから。





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シリアス。
でも最後はハッピー。
みたいな感じの物が書きたかったんです。
 
 

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