Seil
□現代編 逃亡
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1はじめましてさようなら
「ねこ。」
「ネコッ?!可愛いですねぇ――って違うじゃん!」
「似てるだろ。」
「そうですけどー。」
ノリツッコミと忙しい青年だな、と思ってたら、頭をがしがしと掻きながら、俺の方に近づいてくる。俺がなにされるんだとばかり身体を硬直させれば、先程の長身の男は「やっぱねこだな。」と部屋の中心にあるソファに踏ん反りかえりながら言った。クリームイエローの青年は「そうそう、そのまま。」と言うと、こっちに向かって来る途中で引っつかんだハンディーな金属探知機みたいなものを頭から足までかざされた。それから「このゲートくぐって。」とまるで搭乗検査のごとく入り口に立て構えてあるゲートをくぐった。
ピンポーンッ!
「な、何だ?!」
「・・・師匠?これは一体どういうことですか?」
「し、師匠?!って、おま、オマエが師匠?!」
「え、貴方は師匠と知り合いなのですか?」
「というか会うのは二回目、だな。」
「そうですか。で、師匠、この人は誰で、それでなぜ知り合いなのか、このランプが鳴った理由を教えてください!」
クリームイエローの青年が、バシンと乱暴に探知機らしきものをスチールの棚に置くと、さっき座っていたパソコンの前に座った。なにこれ俺帰っていいですか?引きつる笑顔に師匠が「説明するから座れ。」と手招きされた。俺は師匠のテーブルを挟んであるソファに座ろうとした。
「そこじゃねぇよ。床だ。」
今、俺すっげーとぼけた顔してる。うん。だって客招いといて冷たいコンクリの床に座らせるかよ・・・とそんなこと声に出せるはずもなく、俺は「はい・・・。」と小さく返事すると、床に体育座りした。自然に二人に見下ろされるかたちとなる。しかも俺、シーツで隠してるとはいえパンツ一丁だし。なんだよこのプレイ・・・。
「貴方の名前は?」
「アスカ、です・・・。」
「年齢とコード番号お願い。」
「二十四歳、”4857892”。」
俺はクリームイエローくん(もう名前これにした)の質問に正直に答える。彼はパソコンを画面に何かを打ち込んでいて、しばらくもないうちに「あー・・・軍卒B地区ギルドにハヤテさんかぁ・・・。」とクルリと俺の方に身体を向けて呟いた。つうか、俺の個人情報こんなに易々と知られちゃってるんですけど?おい、管理人どうなってんだ。
「アスカさんって、B地区戦士ギルド所属で、プロトタイプBだったんだね。にしてはよくタカミネさんとこ居れましたね?アスカさんは知ってるかわからないですけど、今日未明に亡くなってることになってますよ。」
「・・・・・・・・・ハアッ?!」
「ホントですよ。」
「俺が説明しようと思ってたのにやっぱ必要ねぇじゃん。」
「いいえ、説明は必要です!アスカさん、大丈夫ですか?顔色が優れないみたいですが・・・?」
「あ、当たり前だろ!お、俺、死んでるの?!すぐに間違ってるってギルドに報告に行かなきゃ――。」
「そいつは無理なお願いだ。」
師匠が出口に向かおうとする俺に銃をかざした。ゴクリと生唾を飲み込む。俺は武器を持ってない。丸腰もいいとこだ。
「なんで・・・戻れないんだ?」
「オマエ、戻ってもタカミネに研究所連れてかれるんじゃねぇの?」
「なぜそれを・・・。」
「自分で言ってたぞ。」
「そんな・・・じゃあハヤテやアスカには会えないのか?」
「ああ。それについてはまた後で話したい。とにかくオマエは表上死んだことになっているが、裏では逃亡者扱いになっているだろう。タカミネが血眼になってオマエを探しているはずだ。・・・死体がなかったんだからな。」
俺は思いのよらない事態にめまいをおばえる。ほんとうに頭が痛い。わからないことがありすじだ。だいたい師匠はわかる。でもこのクリームイエローは誰だ?それに師匠は失踪してるんじゃなかったのか?しかもこんな地下で篭ってなにやってんだ。こいつらは?
「ここはどこだ?」
「D地区東寄りの地下。」
「なにしてんだ・・・?」
「隠れてる。」
「何から?」
「政府から。」
政府?俺はぐるぐると渦巻いてキリキリと痛む頭を抱えた。なんで突然政府なんて出てくるんだ?コイツらほんと、何者なんだ?俺をここに連れてきてどうするんだ?匿うのか?見張るのか?頭が痛い。俺はこの先どうなるんだ・・・?
するとふわっといきなり身体が空中に持ち上がった。目を開けると青い目が俺を見下ろしている。ソファに横たわらされると、「治療の続きをする。」と言い、クリームイエローの青年は「救急箱!」っと言って棚を漁りはじめた。
「俺、どうなるんだ・・・?」
意識も朦朧とした中で俺は目の前の男に尋ねた。男はづっと青い両目を細めると、先程の鋭い眼光からやわらかな目つきに変えて言った。
「ここにいろ。」
こうして俺たち?の逃亡生活は幕を開けた。
20100811