Seil

□現代編 逃亡
2ページ/41ページ


1 はじめましてさようなら

 さむい。おれはどこにいるんだろう。たしか、はやてといっしょにいたような。それでめのまえにほしがとんで、あたまにすごいしょうげきが・・・くらくらする。

 俺は目を開けた。眩しくて手で光を遮断する。蛍光灯の光が目にしみる。俺は冷たい台の上に寝かされているようだ。顎を引いて自身の身体を見る。パンツ一丁・・・。横でなにか黒いものが動いた。俺はそちらに首を向ける。研究者か・・・?!まさか、俺、A地区の研究室に連れていかれ、た?ぞっとして考えるより先に台から下りようと身体を起こした。

 「痛ってエエ・・・ッ!」
 「当たり前だ、そこを動くなよ。」
 「く、来るな!」
 「静かにしろ、気づかれる。」

 白衣とは間逆の黒いゆったりとしたジャンパーと黒のキャスケットを被った長身の男は、俺を逃げないように横目で確かめながら透明の液体が注入された注射器をパチパチと指で弾いて空気を抜いている。この部屋には薬品棚がたくさんある。コイツ、銃を扱う特有のグローブをしてやがる。・・・もしや研究者じゃない?

 「オマエ、俺のこと覚えてねぇのか?」
 「・・・どっかで遇ったかよ。」
 「鎮静剤を打つ。俺はオマエをホテルで拾った。」
 「そうだ・・・俺、ホテルにいて・・・。」
 「状況がマズイ。これを打ったら逃げるぞ?」

 とにかくコイツは俺を見つけて怪我しているところを助けてくれたらしい。これだけのやり取りで善悪か見極めるのは難しいが、ナリは怪しさ満点のものの、男の真摯な眼差しに信じてみようと思った。状況がマズイと言っていた。俺が勝手に動くよりコイツに従ったほうが良さそうだ。俺は一抹の不安を抱えつつもその男が俺の腕に針を刺すのを見ていた。

 「よし。走るぞ。」
 「は?この格好で?」
 「仕方ないだろう。」
 「仕方なくねーし!しかも頭グラグラすんのに走れるかっつうの!」
 「文句が多い奴だな。お陀仏したくなけりゃ、俺について来い。」
 「ちょ、待てよ!」

 男はそう言ったあと、すぐ走って部屋を出て行ってしまった。俺もとにかく台に敷かれていたシーツを引っつかみ、男の後を追う。アイツ、小銃持ってやがるじゃねーか!絶対危ない奴だ・・・でもそんなこと悠長に考えてる暇じゃないのは本当らしいな。どこかの診療所と思われる廊下では報知器が鳴り響いている。俺は揺れる男の黒髪を追いながら、腰に常備してあるホルターに触ろうとする。・・・あ、あれ、って俺裸だったんだ、って、俺の銃はどうなった?ああもう、アレ高かったし気に入ってたのに・・・!俺はもうどうにでもなれ!と出口から飛び出し、裸足で男を追いかける。もうどれくらい走っただろうか?男は一度も後ろを振りむかず、大通りからどんどん離れて狭い路地に入っていく。荒れる息でなんとか酸素を吸い込み、男は突き当たりの道で止まった。ええ?!後ろから追手が来てるけど、行き止まりかよ?!俺が足を止めて突き当たりの壁を途方もなく眺めていると、ズルッと金属の鈍い擦れる音が傍から聞こえた。

 「頭打つなよ。」
 「ハァ・、なん・・アッ?!」

 俺は男に腰を捕まれるとマンホールの穴の中に放り込まれた。すぐに続いてガコンッと金属の鈍い音に続いて男が飛びこんできた。強い衝撃が来るだろうと思い、放り込まれるときにとっさに丸めた身体にはボスンと柔らかな衝撃が待っていただけだった。俺は大きなマットレスの上に尻をついており、男は平然と立っていた。

 「帰ったぞー。」

 というか、開いた口が塞がらないんですが・・・?ここは一体どこ?まわりに下水道なんて水路ない。地下は地下でも一室の部屋だ。壁や床はコンクリートで、照明はオレンジの豆電球がたくさん天井から吊るされている。それに訳の分からない機械が積み上げるように置かれていて、それが部屋の三分の一を占めている。パソコンも五台はざっと見ある。その一つの前で座っているクリームイエローの髪のこれまたさっきの男と同じキャスケットにジャンパーを着た俺と年齢が近そうな男がキャスター付きの椅子から首を逸らしてその男と俺を見た。

 「お帰りなさい。ってダレッ?!」

 青年が吃驚しすぎて椅子から落ちた。痛そうだ。







次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ