Seil
□プロローグ 序
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全然すぐに終わりそうじゃない。
というか、
「どういうつもりだ。」
「そういうつもりだけど・・・。何?どれも気に入らないの?僕が一生懸命、君のパートナーをここ半年間募ったんだけど?」
「いらない」
事務所に入れば数十名の男女が綺麗に鎮座していた。床の上に。タカミネは入ってすぐに、「選んで。」と言った。嫌な予感がした。オレはきびすをかえそうと振り返った。
「選んで。」
「やめろ。」
「選ばないと、解雇だから。」
「ああ、それでいい。」
「よくない。パートナー契約して。」
鎮座した連中は、まだ餓鬼だろうと思える青年から気が強そうな美女までいた。じっとオレを値踏みするように見つめている。その眼差しの中に潜む、好奇心、失望、喜び、慷慨。突き刺さる視線の中で逃げるようにオレはうつむき加減の青年の頭を見つめた。それから外すことなく問いかける。
「・・・なんで。」
「『師匠』との約束だから。」
「・・・」
「ハヤテくんがここに居れる条件だから。」
タカミネはそう言うと綺麗な笑みを浮かべた。陳列座から、熱い溜息が漏れる。連中がタカミネに見惚れている傍らで、オレは師匠が今どこで何をしているのか思いを巡らしていた。師匠はオレの名づけ親でもあり、恩師でもある。行き場のない孤児だったオレを育ててくれた。もう、会えなくなって何年経ったんだろう。うろんな目でずっと見つめていた黒い頭が、茶色の澄んだ瞳を捕らえた。今考えてもわからない。いや、わかってるんだけど、認めたくない。それは一瞬だった。まばたきすれば逃げる茶色。迷いはなかった。「あの人。」無意識に口走っていた。滑るように口から発した。背後でタカミネが笑ったような気がした。
「あの人が、いい。」
〜プロローグ 上〜
20100802