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□希望
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せがまれてちょっとした
ナイフ投げを見せてやった
すると少年はきらきらと眼を
向けて、僕もやりたいといいだした
どうだ!
もっとこうか!こうか!
ぐにゃぐにゃした
軌道に無理やり
のせられたナイフは
幹にぶつかって、落ちた
次のもあやふや






「なんだー、つまんない
 こんな遊びやめよう」
「もう帰れ」
「なんだい!さっきのお兄ちゃんは
 僕と遊んでくれたのに
 おまえは邪魔者にした!
 へたくそばばあ!死んじまえ」






そう喚くと唇を噛みしめながら
どこかに消えてった
そこに、いるのか
うん、君の相棒がね
どうだっていい
どうだってって、まあ
君らしかったね
もしかして、コツンコツンと
かかとが小道に響く
私が立っている地面が
震えるのを感じた






気にしてるの?
君らしくないね
嫌われちゃって落ち込んでるの?
なぜ落ち込むんだ
さあ、でも僕は君みたいに
失礼なことしてないから
私の背後から身を
ねじるようにして覗き込む
彼はだれなんだろう
三本の爪痕
三日月形に閉じられた
まぶたひっさげて
様子をうかがう
本当にそうじゃないの?






そのテで私のような人間を
不快にさせているのか
君みたいな人って?
お喋りは嫌いじゃない
うん、僕も
お喋りしよう
微動だにしないことをいいことに
近づいて触れる、髪に
遊ばせる、
きれいな微笑み
ずっと閉じたまぶた
もて遊んでいる
彼はもて遊んでいる









「探しものは見つかったの?」








彼の瞳が姿をあらわした









「あなたはどこから来たの
 ひとりぼっちで
 あなたが近頃このあたりを
 うろついているのは知ってた
 わかったんでしょ
 だれもあなたを必要としない
 だれもあなたのことを知らない
 覚えてる?私、あなたが心配で
 一緒に探そうかって言ったの
 すぐ見つかる、このどこかにいるから
 そう言って去っていった
 ずっとあなたが見えなくなるまで
 見送ったのよ、だけどあなたは
 一度も振り返らなかった
 私はあなたを知らない
 あなたはいったい誰なの
 これからどうするの
 どこに行くの
 だれがあなたを
 待ってるの」







ぐるぐると渦巻いていく瞳に
震えるくちびる
僕が君に何をしたっていうの?















「何をしたって、いったい何を?」

  











希望
20100613


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