Seil
□プロローグ 了
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「あの、あの、俺はいったいどうすれば・・・。」
今ぜってー情けない面で眉も八の字になってる自信もある・・・!だけど、なんでこんな見ず知らずのいかにもテメエ、ブッ飛ばすぞ!って殴りかかってきそうな男にガンとばされなきゃならねーの!すげぇ、眼光だけで膝が笑ってるんですけど。俺、この強面男前に何かしたか?いやいや、したよ俺。ハヤテに誘われてギルド内をうろうろしてて、それでハヤテの携帯が鳴ったんだよな。それから血相変えて「しばらくここで待っててくれ。」ってこの缶ジュース渡されて取り残されたんだよな。
取り残された俺はおとなしくギルドの敷地内の中庭の一角に立ち尽くしてて。見渡せば一面の芝生で中心には噴水がある。そんなのどかな場所を眺めながらもらったジュースを飲んでいると、「アスカ?」と後ろの首根っこを持ち上げられ、俺はまるで猫みたいに宙ぶらりんになった。そんで、あまりの驚きで力抜けて握ってたジュースを落とした。ビチャって。強面の高そうなパンツスーツにかかった。じりじりと首元を掴む手が震えてることに気づいた。もうどうにでもなれ!って顔を合わせた瞬間。
「避けんな!糞ガキ!」
「うわっ、わあ。ごめんなさい!」
右フックって、どうよ?俺、全力で避けたからね。そんで全力で謝ってる。このオニイサンに。
「シロー。お待たせ。」
あああ!神様!これは天のお助けなんですよね?ハヤテがちょっと焦った様子で俺の隣についてくれた。
「トキ、こいつはオレの新しい”パートナー”のタシロだ。」
「ふーん。こいつが、噂の?」
俺、噂になってるのかよ。俺みたいな童顔新人戦闘員が噂になるとかありえねえだろう。・・・ということは、ハヤテのあの嫌そうに半ば無理やりパートナーを決められたことが噂になってんだろな。グッ!
「ッてぇ・・・。」
「・・・・・・、ハヤテ、どういうつもりだ。」
「知らん。タカミネに聞いてくれ。とにかくわかったらシロを離してやってくれ。」
「まだわかんねぇから、無理。」
はぁ。とハヤテの溜息が背後で聞こえる。この強面長身男はというと、俺の顎をガシッと掴んで、上にあらんかぎり反らされている。さらにさっきから、右に左に動かすもんだからめっちゃ痛い。じっくりたっぷり、間近で綺麗な面した男とにらめっこしてたら、後ろからクツクツと笑いをこらえる息遣いが聞こえた。それによって、俺は解放されたわけだが、男がものすごい勢いで屈み気味だった身体を起こすから、一瞬さらさらと赤黒い髪が目の前を通り過ぎた。
「トキ、見すぎだ。」
いつの間にか隣に立つハヤテは、あのときみたいに目を細めている。さっきまでの威勢良かった目の前の男は罰が悪そうに頭をかいていた。やっぱハヤテってすごい。それにこの男が、『トキ』だったんだな。
「よかったな、シロ。トキは気に入ったみたいだぜ、アンタのこと。」
「え・・・」
「ばっ・・・!うるせえ!俺はアスカしか認めない!」
「そういってやるな。シロ、こいつがトキだ。」
「あいさつは、ハグがトキ流だ。ハグしてやれ。」なんてハヤテが言うから、やったのに。な、なんだよ!こいつやめろっつて俺を引っぺがしてどっかいっちまった。俺はどうしていいのかわからなくて、それを楽しそうに見つめるハヤテのおだやかな表情に気づかなかった。
あ、汚しちまったパンツスーツどうしよ。