Seil

□プロローグ 下
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 朝がやってきた。オレはベッドにすやすやと眠る童顔の男の前に立っている。昨日は色んなことが連続して眠れなかった。あのあとシロは焦った表情でタカミネって何者だとか尋ねてくるし、サポートは何するんだとか俺ちゃんとできるのかやら騒ぐもんだから、紅茶に睡眠薬を入れてやった。悪く思うなよ。きっと不安と混乱でいっぱいだったからにちがいないが、とにかく黙ってほしかった。静かに考えたい。あれから一生つれ合いは持たないと決心したオレを無視して、契約だとこじつけをつけられてパートナーを得てしまった。過ぎたことは、どうしようもない。シロを責めても何にもならないだろう。どうやら何にも知らずにこのギルドへやってきた様子だったからな。今なら追い逃がしてやって、もっとまともなギルドへ行けって言えるんだろう。でも、心のどこかで手放したくないと思ってしまう。

「アスカ…」

 黒い猫っ毛の髪に触れてみる。思ったとおり、やわらかい。閉じられた瞼の奥には同じ茶色の瞳が埋め込まれている。笑ったときの纏う雰囲気が、酷似していて胸が苦しくなるほどだった。我ながら最低だと思う。シロはシロなのに。アスカとは違う。なのに、アスカの面影をみてしまった私は傍においておきたいと望んだ。もう一度護って欲しいと思った。もう一度、やり直させてほしいと願った。
 タカミネも悪い奴だ。私がシロを選ぶとわかって遊んでいた。よく見つけてこれたもんだ。感心する。でもタカミネの思い通りの駒になるのはやっぱり癪だ。
 しかし、どうして『師匠』の言いつけとはいえ、そこまで律儀に約束を守るのだろうか?オレがギルドをクビなってどうなろうとタカミネには関係ないことだ。パートナー契約をしないとギルドに所属できないという『師匠』の約束を破ったからといって、今はもう失踪していなくなった『師匠』が帰ってくるとも思えない。
けれど、突然消えた『師匠』を探すための情報を掴むためにも、ギルドを辞めるわけにはいかなかった。





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