Seil

□プロローグ 上
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 俺は、その漆黒の目に吸い込まれそうになった。一瞬だった、その目が揺れたのを見たのは。まるで強力な磁石みたいで、底が見えない谷底のように深くて、覗き込めば飲み込まれそうな闇が渦巻いていて。それでも俺には持ち得ない黒に”ヒトメボレ”した。
だから俺が選ばれたなんて、夢にも思わなかった。

 「で、アンタ名前は?」
 「タシロ・・・です。」

 タ、シロ。そう蚊が鳴くような声で俺の”パートナー”になるであろう人が繰り返した。部屋から出てどこに向かうのかわからずに後に従っていると、初めて会話を交わした。横並びに歩きながら隣の小さな"パートーナー"を見下ろす。相変わらずの無表情で、俺は身体が緊張で強張っているのに気づいた。だって、なんだか、怖い。あの扉が開いた瞬間から、この人の表情が変わらないんだ。そんな人間いるか?俺はいままでにない人物に、これから先の生活に不安が募るばかりだ。

 「シロ。」
 「え?」
 「シロでいいか?名前。」
 「え、ええ。好きにどうぞ・・・」

 そう。その人の瞼が少しだけ下がった。まるで目を細めているように見える。最悪、睨まれているともとれる。俺はその目つきに警戒してきっと訝しげな表情をしていたにちがいない。でも、不思議と嫌な感じがしない。むしろもっと・・・。その人は瞼をすっと持ち上げると、「オレはハヤテ。」と名乗った。俺も「ハヤテ。」と繰り返す。さっきの表情をもう一度見れないかと逸らした視線をもどす。変わんねーな。別に期待してたわけじゃない、ただ・・・と訳のわからない言い訳をしようとしたその時。

 「よろしくな、坊主。」

 俺は坊主じゃねー!





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