Seil

□プロローグ 序
1ページ/3ページ


 「はッ!」

 ハア。ハア。

 「また、か。」

 汗で湿ったシャツに触れて、うなだれる。こうしてオレは目覚めた。
 オレはあの日を境に同じ夢を見るようになった。悪夢、なんだと思う。いつも同じ場面で同じ始まりと終わり。夢なんだけれど、とても生々しくて、事実夢で見ている出来事は夢なんかじゃない。どんなに夢であったらいいか何百回も思った。思い込んで、そう信じ込ませようとした。間違ったことが正しいんだ、って。

 始まりは方は、オレがぬるま湯が満ちたバスタブの中で目が覚めるところから。目の前には、眉を顰めて奥歯を噛み締める『相棒』がいて。「どうしてもしなくちゃ駄目なのか。」と問いかけられる。オレは頷いてこう言ってる、「こんなことアンタにしか頼めない。」オレの答えを静かに涙を流しながら聞く『相棒』は一度立ち上がって深呼吸をする。オレは「よし、いこう。」そう言う。彼の両手が胸の上あたりに置かれる。そして、ゆっくりゆっくり、身体が、沈んで、ゆらゆらと揺れる『相棒』の顔を見上げる。苦しい。ごめん。ごめんな。がぼがぼと口から鼻から水が押し寄せ、頭がボーっとする。これで死ねると思った。
ザバッ。いきなりの酸素に目がチカチカして息をするために荒い呼吸を繰り返す。オレは・・・死んだ、のか?上半身を抱きしめられたオレは何が起こったのかありったけの力を振り絞って首を動かす。アスカ、アスカ・・・。『相棒』は冷たいタイルに横たわっていた。抱きしめられた状態だからしっかり確認できない。よく見ようと腕の中で暴れてみるけれど、首を動かしてみるけれど・・・。アスカ、アスカは?身体の回される腕の力が増す。耳元であやすように何度も囁かれた。「大丈夫だよ、大丈夫だから・・・」
そうしてオレは目が覚める。というより、叩き起こされるといった方が正しいか。

 コンコンッ
 「はい・・・」
 「ハヤテくん、起きてる?下に来てくれない?タカミネさんが話があるって。」
 「わかった。用意してからすぐ行く。」
 タンタンタン
 
 階段を下りる音を聞きながらボーっとノックされた質素な木のドアを見つめる。またぼーっと考え込んじまったな…。シャワーでも浴びるか。それにタカミネから話って、また厄介な依頼のことなんだろうか。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ