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□海月
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海が近いって、いいものだ
私を豊かにする
青が上から横から
はさみこむように
だから気分がよくって
ついつい大股で
砂浜を闊歩する
我がもの顔で




今日は先客がいる
それでも気分は上々
まったく問題ない
吹き抜ける潮風に
漣が立つ音
たとえあとから
べたべたになって
からまる髪や足首を
睨みつけることになっても




専門家が、
名札が付いてないのが、
英語でこれが、
おいしいこの葉っぱを食べる
ここに気をつけてください
これがシロツメグサ
それからこれがシロツメグサ
種が水に濡れると
ゼリー状になる
では、
行きましょう
日傘を差した
初老の女性たち数名を
誘導するひとりの老人
はきはきと
とめどなく語る、語る




水に濡れるとゼリー状
私は先客の
海の藻屑となった
ジェリーフィッシュに
語りかける
仰向けに
寝そべった透明のそれは
静かに空を見上げる
ぐったりと
身動きもせずに




まるで俺と名無しさんが
合わさったみたいだよな
始まった
恒例のおしゃべり
密かに楽しみにしている
夜の朗読会




やわらかくて
透明で透き通っていて
名無しさんは海に浮かんで
俺は空に浮かんで
ふたりは青に漂う
海と月が出会う
今世紀最大の発見




おまえは知らない
今日も私は青の下に
月の下に
引き寄せられているとは



















海月
20100618


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