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□教えてくれないか
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雨でいっぱいにしてくれ
そう願いながら
眠りに就いた
翌朝
私を迎えたのは
弱弱しく降る
雨だった








しわになった灰色のシーツに
腰掛ける
アイツの上着の
ポケットに入っていた
文庫本をベッドに持っていって
手元に置いておく
ある夜夢の中で
私が屋根と屋根の間を
底なしの空間を
飛び越えるときに
目が覚めてしまった
ときのために
真っ暗な寝室で
胸がどきどきしていたけれど
私はもう一度眠りに
就くことができた
指先に当たった紙の質感
大丈夫、アイツがここにいるんだって








雨が止んで
窓を開ける
冷たいガラスを押して
耳を澄ませる
電波の仕組みなんて
何ひとつわからない
ただ覚えているのは、たしか
雨上がりの直後、
空気が湿っているときは
遠くまで伝わるらしい
その気になれば
ベルリン、あるいは日本の放送を
受信することもできる
この地球ののどこかに漂う
おまえの言葉でさえ








私はまだ思い出せずにいる
おまえが囁いた言葉
屋根に上がってみる
座って、もやの先にある
朝焼けが街を照らす
もやの中でひとり
アンテナのように
じっとして
テコでも動かない
どきどき本をめくってみる
腕をぎゅっとつかんでみたり
名無しさんと呼びかける声を聞いたり
そういえば奴と仕事だったかな
ダンッダンッと乱暴に
駆けていく足音
だけど、耳を澄ますことだけは
忘れない








なあ、今日はずいぶん真剣に
おまえのことを考えた
そのことについてだが
私も雨あがりにのせて
みようと思う
届いてほしい
いくらかかってもいい
返事を待っている
おまえの言葉が
最後の言葉が
まだ思い出せないんだ





















教えてくれないか
20100613


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