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□悪魔の戯れ
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「いいからついて来いよ
 おもしろいもん、見れるぜ」



双子の片割れが強引に
私を外へ連れ出した
名無しさんはぜってぇ
気に入るからと
あまり馴染みのない裏路地
の中を引きずりまわす
こっちだ、と人差し指を
くいっと持ち上げる
前方にはどこかの家の
裏口に腰掛ける老人がいた
人気はない
いったい何なんだと片割れに
視線を投げかけると
まあ見てろと黒く染みついた
地面に座り込んだ
老人のななめ横に
私は立って壁にもたれかかる
老人の左側に




「なんというかなあ、
 昔は白黒つけたくって
 右か左かどっちにするか
 迅速にかつ正確な方向へ
 ひたすら突き進んでいたんじゃ
 何が正しいと
 思っていたかは忘れたんじゃが
 それが意思ではなくて
 言霊の力っだったっていうのは
 今じゃわかる」




片割れに目配せする
彼はちっとも話を聞いている
様子じゃなかった




「たいていは、理由
 があれば、安心
 するものだからなあ
 ところがどうか、
 いまははっきりしない
 ぼやん、ぼやん、の世界に
 ひっそりしていることが
 居心地いい
 どっちだっていいんじゃ
 そんなに重要じゃないことが
 溢れてるんじゃから
 そう気づいた
 じゃが、
 はじめからそう
 構えていては
 何が重要であって、
 そうじゃないのか判断つかぬ
 注意深く
 一定の距離をもって
 観察する必要がある
 ときには近づきすぎて
 迷子になってみるのも
 悪くないな」




なんだか疲れてきたな
しゃがもう




「その後はきっぱりと
 できるだけ離れてみるんじゃ
 勇気をだして
 別に出さなくたって時が来れば
 離れていってしもうものじゃが
 何も考えないっていうのも
 いい手段じゃないか
 真っさらにして、
 受け入れる
 ああだ、こうだ、は
 隅っこに置いといて、聴く
 耳を澄ます
 そして吟味する
 執着をもって
 あらゆる点で
 突きつめる
 それから解放する
 その繰り返しじゃ
 投げやりになってもいい
 開き直ってもいい
 そうするのが手っ取り早いからなあ
 やってみりゃ、わかる
 ふと思い浮かぶものじゃよ
 ひらめきと本能
 理性、本能
 うむ、どこまで話したかな
 おまえさんたちは、だれだ」
 



ここで初めて気づいた
私たち、片割れを
片割れは真正面に座って老人の肩を
ぽんぽんと叩いた
まるで昔から知ってる
仲間に挨拶するみたいに
私はじっと二人のやりとりを観察する
オレだよ、じいさん、オレ、レオンハルト



「レオンハルト!いつ帰ってきたんじゃ
 なんも連絡よこさんと、
 この親不孝ものが!恥さらしが!
 わしはこんなに衰えて弱ってしまったというのに、」




ぽんぽん
オレだよ、おじさん、オレ、ヴァレンティーノ




ヴァレンティーノ!
きみはどこかで会ったかな
見覚えはないがどうやら老いぼれの
演説につきあってくれたみたいだな
わざわざ、はて、
なんだねこの手は、きみは…






「私はアンナ。迎えに来たの」






片割れの口隅が吊り上った
そう、それでいい

おお、アンナ、アンナや
遅かったのう
いったいぜんたいどこにいたんだ
わしは待ちくたびれてしまったぞ
こんなに衰え弱ってしまった
いいや、杖は必要ないよ
ああ、そうだな、すこし散歩しよう
どうしたんじゃ
すまない、手をきつく握りすぎたようだ










「うしし、早く帰ってこいよー」

















悪魔の戯れ
20100613


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