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□思い出す
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名無しさん殿は今まで会った
女性の中で
とっても印象的だったのを
覚えてます
初めての挨拶を
交わしたときなんて
拙者が一方的に話してるんじゃあ
ないかと戸惑っちゃいました
名無しさん殿は、はじめ
目を合わせずに
ぼんやりと拙者の差し出した
手の指先を
見つめていました
だから、拙者もつられて
手を見てしまって…
それから初めて
目が合ったんです
漆黒の澄みきった目が
ゆっくりと閉じて、開いた
名無しさんと聞こえて
拙者が宜しくお願いしますと頭を下げると
名無しさん殿はまたゆっくりと
閉じて、開いた




拙者は名無しさん殿とめったに
出会わないし
奇跡的に出会ったときには
拙者のコバルトブルーの目が好き
と告白されて驚いた
ううん、正直、
親方さまより強力
青が好き
その言葉をたよりに




ある日屋敷の近くにある
湖畔で名無しさん殿を見たんです
彼女は岸辺に両足を
浸けようとしているようでした
そろっと、ゆっくり沈める
静かに揺れる水面
そして足先が
ぴちゃん
すると近くのスワンが
ぱっと飛び立ち
彼女は水面から覗かせる足先を
じっと見つめていました




次の日もいました
岸辺を見つめていました
次も、その次の日も
湖畔を前に立っていました
ぼんやりと遠くを眺め
待っているようでした
飛び立ったスワンを









思い出す
20100610


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